中東かわら版

№77 イラク:ムクタダー・サドル師の政界引退表明とその余波

 2022年8月29日、対イラン強硬派のシーア派勢力であり、昨年10月の総選挙で最大議席を獲得したサドル派の指導者、ムクタダー・サドル師が、政界からの「完全引退」と全ての関連施設(父ムハンマド・サドルの廟を除く)の閉鎖を発表した。この直後、サドル師の支持者数千人がバグダードの官庁地区グリーンゾーンに押し寄せた他、親イラン派で、6月のサドル派議員総辞職の後に最大議席を獲得した政治勢力「調整枠組み」と各地区で衝突して発砲や投石が起こり、市内各地が封鎖されている。バグダード以外でも同様の混乱が起こり、軍は当日、当面19時以降の外出禁止令を全土に発出した。なおサドル師は自身の支持者に対する治安当局の暴力が続く間、ハンガーストライキを実施すると予告した。

 

評価

 引退発表に先立つ27日、サドル師は国家が現在の政治危機を脱するのを助けるべく、(自派を含む)全ての政党は政府要職を諦めるべきだと発言していた。先月のサドル派議員への辞職の呼びかけに際しても、自派が身を引くことで政治危機の打開が図れるだろうと発言しており、他の政治勢力に対して範を示すような行動を続けている。一方、議員総辞職の後も支持者は調整枠組みの動向に目を配り、さらには今月初めのカージミー首相による各政治勢力との合同協議のボイコットなどを通して、サドル師(派)は「影」の最大勢力としてのプレゼンスを増している。現下の政治危機への憂慮は当然あるだろうが、今次の政界引退によってサドル師(派)がロー・プロファイルな存在になる可能性は低く、その意図もおそらくないだろう。

 

【参考】

「イラク:サドル派支持者によるグリーンゾーン内でのデモと議会占拠」『中東かわら版』No.63。

(研究員 高尾 賢一郎)

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