№76 トルコ:エルドアン大統領がウクライナでゼレンスキー大統領、グテーレス国連事務総長と会談
2022年8月18日、ウクライナ西部のリビウを訪問したエルドアン大統領は、ゼレンスキー大統領との首脳会談、国連のグテーレス事務総長を交えた三者会談を行った。
三者会談に先立って行われた首脳会談は、非公開で約2時間に及んだ。トルコ大統領府通信局は、同首脳会談において、トルコ・ウクライナ関係のあらゆる側面について協議したと発表した。また両国は、戦争により被害を受けたウクライナのインフラ再建にトルコが参画することで合意し、トルコのムシュ貿易相、ウクライナのクブラコフ・インフラ相が覚書に調印した。ウクライナのインフラ省は、「同合意はウクライナの復興プロセスにトルコの参加を規定するものである。これにより、トルコからの投資を誘致し、二国間協力の具体的なプロジェクト開発に向けた共同作業グループの立ち上げ、トルコ企業、政府機関からのコンサルティング業務や技術支援の提供が可能となる」旨、発表した。さらに会談のサイドでは、トルコのアカル国防相がウクライナのレズニコフ国防相と会談し、二国間及び地域の防衛、安全保障問題について意見を交換した。
その後、両首脳は国連のグテーレス事務総長を交えた三者会談を実施し、外交手段によりウクライナ戦争を終結させるための措置、ウクライナ産穀物輸出の継続に関して議論が交わされた。
終了後の共同記者会見で、エルドアン大統領は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所周辺で続く衝突に懸念を表明し、我々は新たなチェルノブイリを経験したくない、と語った。7月22日に合意したウクライナ産の穀物輸出に関し、世界は「プラスの効果」を感じている、今次三者協議で、ロシア・ウクライナ間の前向きな雰囲気を恒久的な平和につなげられるかを協議した、と述べた。戦争は最終的に外交交渉の場で終結させることをゼレンスキー大統領、グテーレス事務総長も同意していると明かした。最も重要なのは戦争当事国が交渉の席に着くための最短かつ公平な方法を見つけることで、トルコはその実現に向けた努力を継続すると強調した。
ゼレンスキー大統領は、和平交渉開始の条件として、ロシア軍をザポリージャ原発から無条件かつ直ちに撤退させるよう要求した。
グテーレス事務総長は、原発を危険に晒す可能性があるいかなる行為も避けるべきであり、軍事攻撃に利用させてはならない、と述べた。また、原発及び周辺地域から全ての武器、兵力を撤退させ、非武装化させることの必要性を強調した。
評価
ウクライナ戦争に終結の兆しが見えない中で、トルコは国連と共に和平に向けた方法を模索している。エルドアン大統領はかねてより、外交による解決をロシア、ウクライナ両国に求めてきたが、今次会談においても、穀物輸出に関するイスタンブル合意で醸成された前向きな機運を消さないよう、ゼレンスキー大統領に働きかけた。だが、当然のことながら自国が侵略されている状況下、ウクライナのロシアへの不信感は根強く、両首脳による和平交渉への道筋は、未だ遠いと言わざるを得ない。それでもなお、トルコが積極的な仲介役を担おうとしているのは、黒海地域の平和と安定がトルコにとっても最重要課題の一つだからである。
今次会談での主要議題の一つは、ヨーロッパ最大規模のザポリージャ原発を巡るエスカレーションの問題である。相互緊張の高まりで原発が爆発あるいは傷つけば、チェルノブイリ以上の大惨事を引き起こす可能性が指摘されている。そうなった場合、放射能被害は、ウクライナ、ロシアに留まらず、ヨーロッパやトルコを含む黒海沿岸地域にも波及する恐れがある。人的、経済的損失は現在の比ではない。
黒海を挟んだ「隣国」であるロシア、ウクライナの情勢は、トルコにも直接・間接的な影響を与える。穀物やエネルギー価格の高騰は当然ながら、本格始動目前の黒海沖ガス田の開発事業にも悪影響を及ぼす可能性がある。
国内では、物価上昇に歯止めがかからない。2022年に入り、消費者物価指数はエルドアン政権への移行以来、過去最高を更新し続けており、市民生活を圧迫している。こうした状況がエルドアン政権に対する不満にも直結し、同大統領の支持率は低下傾向にある。
このようなトルコへの悪影響を抑えるためにも、トルコは国連を中心とする国際機関との連携を強化している。一方のグテーレス事務総長もロシアのプーチン大統領との直接交渉が頓挫している中において、当事国双方とのパイプを持つトルコを頼らざるを得ないという面も指摘できる。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「トルコ:黒海からの穀物輸出でロシア・ウクライナが「歴史的」合意」No.56
(2022年7月25日)
・「トルコ:ロシア・ウクライナ合意による穀物輸出実施に向けた「共同監視機構」が発足」No.59(2022年7月29日)
・「トルコ:エルドアン大統領がロシアでプーチン大統領と会談」No.68(2022年8月9日)
<中東トピックス>【会員限定】
・「トルコ:チャウシュオール外相とロシアのラヴロフ外相との二カ国協議実施」T22-01
(研究員 金子 真夕)
◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/