中東かわら版

№75 UAE:駐イラン大使復帰の決定

 2022年8月21日、外務・国際協力省は、サイフ・ムハンマド・ザアビー駐イラン大使が近々テヘランに戻ることが決定したと発表した。先月26日にはアブドッラー・ビン・ザーイド外相がイランのアブドゥルラヒヤーン外相と電話会談を通して今後の関係改善について協議しており、駐イラン大使の復帰はその一環と位置づけられる。同省は国営通信(WAM)での声明を通して、大使復帰を経て二国間、及びより広域的な視野で共通の利益に基づいた関係構築を進める旨を述べた。

 

評価

 今般の動きは、14日の駐イラン・クウェイト大使の復帰に続くものとして注目を集めている。イランと断交したサウジアラビア・バハレーンと足並みを揃える形で、UAEは2016年1月に駐イラン大使の召還によって外交関係の格下げを続けていたが、クウェイト同様、イランとの経済関係は維持していた。

 クウェイト同様、この背景には地域的に見れば昨年4月以降のサウジ・イランの直接交渉(イラクが仲介)の継続、より広域的には今年8月以降のEU仲介によるイラン核交渉再開に向けた動きがあると考えられる。加えてUAEにとって、対イラン関係における治安上の最大の関心はイエメンのアンサールッラー(通称フーシー派)によるドローン攻撃であるところ(イランはアンサールッラーへの軍事支援を否定)、同国が今年4月以降は停戦状態にあることが、今般の対イラン関係改善を後押ししたとも言えるだろう。アンサールッラー側はUAEが南部で傭兵を雇って軍事展開していることを指摘し、批判するが、イランはアンサールッラーを、ヒズブッラー(レバノン)に対するほどには親密かつ優秀な代理勢力と位置づけてはいない。この点、アンサールッラーの主張がUAE・イラン関係の規定要因となるわけではない。

 ただし、特にクウェイトとの違いとして重要なのは、UAEがアブラハム合意参加国であること、すなわちイスラエルとの関係強化を積極的に進めていることである。この点、クウェイトのケース同様か、あるいはそれ以上に、イスラエル側の関心は高いことが予想されるが、現時点でこれについて公式なコメントは出されていない。ただしこれは、言うまでもなくイスラエルのイランへの警戒が弱まったことを意味するわけではなく、イスラエル国内の報道では、イスラエルがイランを警戒している状況に変わりないことが示唆されている。こうしたイスラエルへの配慮も含め、UAEとしては早々にイランに対する警戒を解くことはできない。

 

【参考】

「クウェイト:2016年以来となる駐イラン大使の任命」『中東かわら版』No.73。

(研究員 高尾 賢一郎)

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