中東かわら版

№66 イラン:核合意再建に向けたウィーン協議が再開

 2022年8月4日、ウィーン(オーストリア)で、EUの仲介による核合意再建に向けた米・イラン間接交渉が再開した。今次ラウンドは、EUのボレル外務・安全保障政策担当上級代表の仲介で実現したもので(詳しい経緯は『中東かわら版』No.61参照)、同上級代表が米・イランに示した提案文書を土台に、英・独・仏・中・露も加わりながら協議が進められる。米・イランは直接交渉せず、EU、及び、これらの国々を介し間接的にメッセージをやりとりする。

 4日、ウィーンに到着したバーゲリー外務事務次官は、EUのモラ事務局次長との協議に臨んだ。各種報道によれば、バーゲリー外務事務次官とロシアのウルヤノフ・ウィーン常駐代表との協議、同次官と中国首席交渉官との協議も行われている。内容は明らかにされていないが、今次ラウンドでの主要な争点には、革命防衛隊の外国テロ組織指定解除、国際原子力機関(IAEA)による厳格な査察の継続、及び、米国が再び離脱しない保証等が含まれる。米国のマレー特使も3日に「我々の期待値は抑制的である」とツイートするなど、交渉は正念場を迎えているが、依然として妥結に向けて課題は山積みである。

 

評価

 6月28~29日にドーハ(カタル)で行われた協議が目に見える成果を出せなかった中、EUが仲介に本腰を入れる形で始まった今次ラウンドは、核合意の存亡を左右し得る分水嶺である。イランの核開発に批判的な科学国際安全保障研究所(ISIS)は、イランは既に充分な量の高濃縮ウラン(60%)を保有しており、もしイランが核兵器開発を望むならば「数週間」以内にも実現可能と警鐘を鳴らしている。イラン国内では、過去数年、核関連施設への攻撃、核科学者の暗殺、革命防衛隊員の不審死等、イスラエルが背後にいることが疑われる事案が散発的に発生してきた。バイデン大統領による中東訪問(7月13~16日)でも、イスラエル、サウジとの協力強化を通じたイラン包囲網形成の方向性が打ち出された。この状況下、特にイスラエル・イラン間の軍事的緊張の回避に向け、米・イラン双方が核合意再建に向けて歩み寄れるかが焦点となる。

 制裁で財政難に喘ぐイラン側の立場は「ボールは米国側にある」というものであり、実際、2018年5月に核合意を反故にしたのは米国だったことから、バイデン政権が政治的決断を下せるかが重要である。バイデン大統領就任(2021年1月)以降、アフガニスタン政権崩壊に加えて、もしイラン核合意が事実上崩壊すれば、バイデンの中東外交での失点は増える。米国の影響力は更に低下し、域内情勢は不透明さを増すだろう。同時に、現在イランはリスク・ヘッジとして「均衡の取れた外交」政策の下、中国、ロシア、近隣諸国との関係強化を進めていることから、これらの国々との接近がより鮮明になると予想される。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:EU仲介による、核交渉再開に向けた動き」2022年度No.61(2022年8月2日)

(研究員 青木 健太)

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