中東かわら版

№64 サウジアラビア・UAE:米国が武器売却を発表、イエメン戦争の停戦合意延長とOPECプラスの石油増産がこれに続く

 2022年8月2日、米国国防総省は、サウジとUAEに対する武器輸出の決定を詳細とともに発表した。具体的には、サウジに対して30億5000万ドル相当の地対空ミサイル(レイセオン・テクノロジーズ社製の誘導強化型パトリオットMIM-104E)をその制御設備とともに、「(イエメンの)フーシー派(※正式名称:アンサールッラー)のドローンや弾道ミサイルによる市街地や需要インフラ施設への攻撃にサウジが対抗する」(国防総省)目的で売却する。またUAEに対しては、22億5000万ドル相当の地上配備型迎撃システム(ロッキード・マーティン社製の終末高高度防衛ミサイルTHAAD)をその通信基地と関連装備品とともに、「中東における政治的安定、経済成長にかかわる米国の重要なパートナーであるUAEの治安改善を支援する」という米国の外交政策に基づいて売却する。

 なお同日、サウジが中心となって介入を続けているイエメン戦争の停戦合意の2カ月間の延長決定が(今年4月以降、停戦合意を形式上維持)、またサウジを含むOPECプラス加盟国による9月以降の石油の追加増産の合意決定(日量10万バーレル)が発表された。

 

評価

 米国のサウジ・UAEに対する武器禁輸の撤回は、この半年間ほどでしばしば俎上に上がっていたが、今回、ようやくその詳細とともに決定が発表された。

 バイデン政権は2021年2月、発足に伴ってサウジとUAEへの武器輸出の停止を発表した。この際、同大統領はイエメン戦争の平和的解決を優先的課題に掲げており、同措置の背景にはサウジ・UAEがイエメンに軍事介入を続けていることがあった。この理屈にならえば、今次決定はサウジ・UAEが国連主導のイエメン戦争の停戦合意に協力をしたことに対する、米国からの「見返り」と位置づけられよう。

 加えてバイデン大統領は、先月16日のサウジ訪問の際、サウジの治安・国防面の支援、及び中東地域への関与に言及した。こうしたコミットメント表明にもかかわらず、バイデン大統領は石油増産の言質がとれなかったことから、サウジ訪問は「手ぶらでの帰国」等と揶揄されたが、武器売却の発表にあわせてOPECプラスの石油増産が発表されことは、上記の「見返り」に対する「見返り」と言えるかもしれない。

 もっとも、10万bpdという石油増産規模の小ささを考慮すれば、以上を対等な取引と見るのは難しく思われる。むしろ米国としては、EUを仲介にイランとの間で核合意再建への機運が高まる中、サウジ・UAEといった域内主要国への配慮が必要な状況にある。加えて言えば、武器禁輸を続ける間、サウジ・UAEがフランス等から武器輸入を続けていた状況に鑑みれば、米国としては中東での利権を無為に失うだけといった認識もあっただろう。そして最も重要なこととして、米国は今年11月に中間選挙を迎える。国内ではトランプ前大統領の再出馬等が注目を浴びる中、バイデン政権の運営が危うくなるとの見方も目立つ。このため、バイデン大統領としては一つでも多くのアピール材料がほしいところだろう。先月のサウジ訪問を含め、こうした焦りを埋める要素を中東情勢に求めている様子が米国の動向からうかがえる。

(研究員 高尾 賢一郎)

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