中東かわら版

№63 イラク:サドル派支持者によるグリーンゾーン内でのデモと議会占拠

 2022年7月27日と30日、短期間で二度にわたってデモ集団がバグダードのグリーンゾーン内にある議会に突入した。きっかけと呼べるのは、新政府形成を目指すプロセスにおいて、25日に最大勢力「調整枠組み」がムハンマド・シヤーウ・スーダーニー氏(元人権相他)を首相候補として擁立したことである。これに対して、スーダーニー氏がマーリキー元首相に近しいとの評価がサドル派から下されたことで、同派支持者によるデモ及び議会占拠に至った。現地報道によれば、デモ参加者はグリーンゾーン内で礼拝、食事、睡眠をしており、スーダーニー氏を「(腐敗や親イラン路線の象徴である)マーリキー元首相の複製品」等と罵倒している。

 

評価

 サドル派は昨年10月の総選挙で最大勢力となったものの、新政府形成を主導するほどの議席数の獲得には至らず、先月12~14日にかけて議員73名が辞職した。その後、候補者の繰り上げ当選を経て最大勢力となった調整枠組みも、同様に新政府形成を主導する議席数には至っていないため、イラク政局は一層の混乱に陥った。それでも調整枠組みは、他の政治勢力との利害調整を図りつつ、特徴である親イラン路線に基づいた新政府形成を目指してきたが、それが「影」の最大勢力であるサドル派とその支持者を刺激する結果となった。

 グリーンゾーンという、旧米軍管理区域で、また三権の最高機関や大使館が集まる場所にデモ集団が侵入した事態により、イラクはその混乱ぶりを海外に伝えることになってしまった。カージミー首相はデモ参加者とこれに対応する治安当局の双方に対して冷静な行動を呼びかけ、またイラン外務省は(デモ隊が親イラン政治勢力を敵視していることから)グリーンゾーン内の在外公館の警備が一層強化されることを望む旨をイラク政府に対して伝えた。

 サドル派議員の一斉辞職の真意は明らかにされていないものの、一つには、各政治勢力との利害調整が進まない中で、一旦議会から身を引いて新政府形成のきっかけを与えることで他会派に恩を売りつつ、自らは抵抗勢力の立場から自派の主張を影響力あるものとして投げたいとの思惑があったと考えられる。今般の二度にわたる議会占拠は、これ自体終わりが見えていない点で評価が難しいが、ひとまずは親イラン路線への揺り戻し(マーリキー政権時代への回帰)に強く「ノー」を突き付けるものとなった。

(研究員 高尾 賢一郎)

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