中東かわら版

№62 サウジアラビア:産業都市計画NEOMの基幹事業THE LINEの構想発表

 2022年7月25日、ムハンマド皇太子はサウジ・ビジョン2030の一環で進めている紅海沿岸の産業都市計画NEOM(同皇太子が取締役会会長を兼務)の株式を、2024年に公開すると発表した。これにより、2027年までに政府が用意する5000億リヤルに加え、2000~3000億リヤルを調達することを予定し、現在世界で第7位の取引規模とされるサウジ証券取引所を、同3位までに入るものとすることを目指す。

 これにあたり、NEOMの基幹事業の一つである都市計画THE LINEの具体的な構想が発表された。Zero Gravity Urbanism(無重力都市設計)とも呼ばれるデザインは、外観が鏡面で、幅200mながら全長170km、高さ(海抜)500mの三次元構造であり、動力の全てを再生可能エネルギーで賄う「ゼロカーボンシティ」を趣旨とする。2030年までに事業の第一フェーズを終え、2045年には人口900万人超を擁するメガシティとする計画である。具体的なビジュアルはTHE LINE公式ページを参照されたい(https://www.neom.com/en-us/regions/theline)。

 

評価

 2030年をビジョン2030の一つの区切りとすれば、その期限は残り約8年半となる。女性の社会進出、娯楽産業の促進、観光査証の発給といった「開放政策」に加え、住宅供給や医療アクセスの拡充といった社会保障面の政策にも着手し、これらを功績としてアピールしてきたムハンマド皇太子だが、NEOMに関しては目立った進捗を示せていなかった。こうした中、同皇太子は2021年1月、THE LINEの建設を同年第1四半期に開始すると発表しており、今般この青写真を(プロモーション映像とはいえ)ようやく公開したかたちとなる。

 近未来的なデザインに注目が集まる中、構想発表の中で将来の人口構造に言及があったのは興味深い。現在のサウジの人口は3,500万ほど(約1/3が外国人)だが、2030年までに5,000~6,000万(約1/2が外国人)ほどに増えることが期待されている。リヤド、ジェッダの既存の二大都市でこの人口増加に対応するのは、住居と生活サービスの提供、並びに管理という観点でも早晩限界が訪れよう。THE LINEはその人口増の5分の1~6分の1ほどを負担する意義を持つ。

(研究員 高尾 賢一郎)

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