中東かわら版

№60 アフガニスタン:アル=カーイダのザワーヒリー指導者がカーブルで爆死

 2022年7月31日朝、首都カーブルのシェールプール地区で、米国のドローン精密照準攻撃によって、アル=カーイダ(AQ)のアイマン・ザワーヒリー指導者が殺害された。8月1日夜(米国時間)、バイデン米大統領が演説において明らかにした。

 同大統領は、ザワーヒリーは数十年に亘って米国権益を脅かしてきたAQ指導者であり、今回正義の裁きが下されたことによって米国はより安全な場所になったと主張した。また、同大統領は、米国のテロ対策チームが本年初頭にザワーヒリーの居場所を特定し、同人が家族とともにカーブル市内に暮らしていることが判明したため、1週間前に攻撃の最終承認を下したと明らかにした。同大統領は、民間人への二次被害は全くないと述べた上で、米国はシリアでも「イスラーム国」指導者を殺害するなどテロ対策で功績を着実に上げていることを強調し、アフガニスタンを再びテロの出撃基地にしないと約束した。

 本稿執筆時点で、AQ総司令部、および、ターリバーン暫定政権から公式の反応は示されていない。

 なお、バイデン大統領による演説前、ターリバーンのムジャーヒド報道官は、治安・情報機関による調査の結果、ドローン攻撃は米国によるものであることが分かったと認め、今次攻撃はドーハ合意違反だとして強く非難する声明を発出した。

評価

 アフガニスタン領内にザワーヒリーAQ指導者がいた事実が露呈したことは、ターリバーンにとって失態である。と同時に、ターリバーンが、米国を相手にダブル・スタンダードを使い分けてきたことが白日の下に晒された。

 ターリバーンは米国との間でドーハ合意に署名(2020年2月29日)し、米軍完全撤退を引き出す代わりに、アフガニスタンの領土をAQ含む国際テロ組織に使用させないと公約した。同合意では、国際テロ組織に庇護を与えることも禁じられた。しかし、今回、米国のドローン攻撃によって、ザワーヒリー指導者はカーブル市内で爆死した。事件が発生したシェールプール地区は、省庁や外交団が数多くあるワジール・アクバル・ハーン地区に隣接する、富裕層が多く暮らす一帯である。ザワーヒリー指導者のような重要人物が、アフガニスタンの現在の実効支配主体であるターリバーン指導部の了解なしに、同地区に居所を構えることは不可能である。このため、ターリバーンは表では国際テロ組織と関係を断絶すると言いつつ、裏ではAQに庇護を与えていたことになる。

 このような経緯を踏まえると、今後、米国を始めとする国際社会からターリバーンに対する風当たりは一層強まることが予想される。AQは、米国中枢を襲い、死者約3000名を出した9・11事件の首謀者であり、多くの国々にとって同情の余地が一切ない軍事的に殲滅すべき客体である。そのAQをターリバーンが匿っていたことから、諸外国はターリバーンへの政府承認を控えると考えられる。一方のターリバーンは、これまでの対応を見る限り、米国による領空侵犯を非難することで、矛先を米国に向けさせる可能性が高い。しかし、「一体なぜそこにAQ指導者がいたのか」を詳らかに説明しなければ、ターリバーンは孤立化する。

 他方、AQの観点から見ると、20年前に比して、近年の活動は著しい低迷傾向を辿っており、この傾向に大きな変化はないと考えられる。今回のザワーヒリー指導者の爆死を受けて後継者の選出が検討されるだろうが、これをもって支持者が急増するとは考えられず、新しい指導者の下でもこれまでと変わらない低調な活動を続けざるを得ないと見られる(詳しくは「CIAがアイマン・ザワーヒリーを殺害――アル=カーイダ勢力への影響――」『イスラーム過激派モニター』M22-06【会員限定】2022年8月2日付を参照)。

(研究員 青木 健太)

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