中東かわら版

№59 トルコ:ロシア・ウクライナ合意による穀物輸出実施に向けた「共同監視機構」が発足

 

 2022年7月27日、イスタンブルで共同監視機構の開所式が行われた。この組織の主たる役割は、7月22日のロシア・ウクライナ間合意に基づき、黒海経由での穀物輸出再開に関する輸送船舶の監視、調整を行うことである。

 同機構はトルコ国防大学の敷地内に設置され、国連、トルコ関係者立ち合いの下で、ロシア、ウクライナの軍・文民当局者が黒海を通過する全ての商業船舶の出港を追跡、記録する。また、トルコに入港時点で合同検査チームによる船舶の検査が実施される予定である。

 開所式を主催したアカル国防相は冒頭挨拶において、ロシア、ウクライナの代表団に対し、共同監視機構が機能することにより、安定的な穀物輸出が実現されれば世界の食糧危機解決に繋がるとし、人道的観点からも両国が重大な責任を負っている旨強調した。

 チャウシュオール外相は7月27日のテレビインタビューで、7月22日の合意翌日にロシアがウクライナのオデーサ港を攻撃したことに関し、全ての関係者にとって懸念すべき問題で、こうした攻撃を繰り返してはならないと述べた。また、ウクライナ、ロシア産の穀物、飼料、肥料等に依存している国が多いことから、この計画実行が失敗すれば世界に深刻な問題を引き起こすと警告した。一方で、今次プロセスの成功は戦争当事国同士の利益になり、将来の停戦可能性を高めることができると強調した。さらに、一連の合意をロシアの弱体化を望む一部の国が歓迎していないことに触れ、「現実的なアプローチとは言えない」として、トルコは目的達成のため建設的かつ積極的な役割を果たし続けると語った。

 

評価 

 ロシア・ウクライナが戦争開始以降、初めて前向きな合意をした直後の、ロシアによるオーサへの攻撃は、仲介役を担った国連及びトルコの顔に泥を塗る形となった。これにより数カ月にわたる交渉の末に導き出された同合意の履行が危惧されたが、最重要事項の一つであった共同監視機構が予定通り発足したことは、一歩前進とも言える。

 7月26日、カルン大統領府報道官は「Bloomberg」に対し、ウクライナからの船舶出航時期について、今後2週間以内に再開されるとの見通しを示したが、ロシア軍によるウクライナ東部への攻撃が断続的に行われていることもあり、穀物の安定供給に至るまでには未だ時間を要する可能性が高い。

 トルコ大統領府は7月26日、エルドアン大統領が8月5日にロシアのソチを訪問し、プーチン大統領と会談すると発表した。現時点では同訪問における協議内容の詳細は明らかにされていないが、首脳会談の実施により、穀物輸出から先の停戦に向けた動きへと繋げられるかが注目される。

 

【参考情報】

 *関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 

<中東かわら版>

「トルコ:ロシア・ウクライナ・トルコ外相の3カ国協議の実施」No.126

(2022年3月11日)

「トルコ:イスタンブルでウクライナ停戦協議を開催」№136 (2022年3月30日)

「トルコ:黒海からの穀物輸出でロシア・ウクライナが「歴史的」合意」No.56

(2022年7月25日)

「エジプト:ロシアがエジプトへの穀物輸出を確約」No.57(2022年7月26日)

 

 

<中東トピックス>【会員限定】

「トルコ:チャウシュオール外相とロシアのラヴロフ外相との二カ国協議実施」T22-01

    

(研究員 金子 真夕)

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