中東かわら版

№55 リビア:石油施設の封鎖解除、輸出の再開

 2022年7月20日、リビア国営石油会社(NOC)は、外国船籍のタンカー2隻が原油を積み込むためにシドラ及びズワイトゥーナ両石油輸出港に到着し、輸出が再開されたことを発表した。リビアでは4月中旬以来、東部の石油輸出港や南西部の石油施設で妨害活動が相次ぎ、全土で石油をほとんど輸出できなくなっていた。石油収入の減少により財政は著しく悪化し、また石油生産時の随伴ガスの供給も途絶えたことで停電が頻発するなど、輸出停止の影響は国民生活にも及び、7月初めより東西各地で社会経済的な不満を訴えるデモが発生している。

 産油量は封鎖前(3月)の116万バーレル/日量(bpd)から、6月時には63万bpdまで半減したが、輸出の再開を受け、NOCは早期に120万bpdまで回復させる目標を掲げている。

 

評価

 今般、石油輸出が再開された背景には、これまで敵対してきたダバイバ国民統一政府(GNU)首相と、ハフタル・リビア国民軍(LNA)総司令官との関係が改善したことがある。今回の石油施設の封鎖には2020年時と同様、LNAが関与していたとみられ、封鎖解除にはハフタルの同意が必要であった。こうした状況下、UAEの仲介でダバイバ首相の側近とハフタルの息子、サッダームがアブダビで秘密裏に会談し、石油輸出の再開に合意したと伝えられている。

 LNAの封鎖解除の見返りとして、GNUは12日にハフタルと近い関係にある、東部出身者のベングダーラ元中央銀行総裁(2006~11年)をNOC新会長に任命した。また、18日には2014年の紛争勃発以降初めてLNA将校のトリポリ訪問を容認するなど、ハフタルと歩み寄る姿勢を示している。一方のハフタルも石油輸出の再開カードを駆使することで、悲願であったトリポリの政権運営に参画できる見通しが立ったため、GNUとの協力関係を維持すると考えられる。

 リビアでの石油輸出の再開は、GNU・ハフタル間の緊張緩和による成果であるが、ウクライナ危機下でエネルギー面の脱ロシア依存を進める欧州諸国にとっては、待ち望んだ結果である。この点より、仲介役を担ったとされるUAEの貢献度は非常に大きかったと言える。

 他方、GNU・ハフタル間の急接近に対し、東部拠点の代表議会(HOR)が承認するバーシャーガー内閣の反発が予想される。ハフタル及びHORは今年3月、GNUに対抗するためにバーシャーガーを首相とする新政府を発足させたが、バーシャーガーはトリポリ入りの試みを何度も失敗したことでハフタルからの信頼を失っているとみられる。この先、GNUとハフタルが輸出再開を機に政治面でも更に連携していくとなれば、バーシャーガーや彼の支持者は政治プロセスから完全に排除される可能性が高い。このため、バーシャーガーを支持する武装組織がGNUの政権運営を妨害するため、トリポリ周辺で軍事行動に着手する恐れもあるだろう。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「リビア:全土での石油輸出の停止」No.11(2022年4月19日)

・「リビア:石油輸出停止の長期化」No.46(2022年7月1日)

(研究員 高橋 雅英)

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