中東かわら版

№54 UAE:ムハンマド大統領のフランス訪問

 2022年7月18日、ムハンマド大統領は同職就任後、GCC諸国以外の初めての外遊としてフランスを訪問し、同国のマクロン大統領と会談した。会談では、主に現下のウクライナ情勢に鑑みたエネルギー分野での協力につき協議した。これを経て、両者は包括的戦略エネルギー・パートナーシップ(CSEP)、及びADNOC(アブダビ国営石油会社)とTotal Energies(フランスを本社とするスーパーメジャー)の協力締結に至った。CSEPはエネルギー分野の安全保障、価格調整、脱炭素化、水素・再生可能エネルギー・原子力エネルギーにおける共同投資、COP28(2023年にUAEで開催予定)での各種協力を軸としたもの。この他、具体的な成果として以下の分野での協力が伝えられた。

  1. 高等教育(UAE外務・国際協力省とフランス欧州・外務省による共同宣言)
  2. 産業・技術分野での標準化(UAEの産業・先端技術省とAFNOR(フランス規格協会)によるMoU)
  3. 気候変動対策(UAE気候変動対策特使事務局とフランスのエネルギー移行省によるMoU)
  4. 国防(タワーズン経済評議会(UAE軍及びアブダビ警察が契約する防衛産業イネーブラー)とフランス国防省軍備総局によるロードマップ)
  5. 宇宙開発(MBRSC(ムハンマド・ビン・ラーシド宇宙センター。ドバイの宇宙開発機関)とCNES(フランス国立宇宙研究センター)による月探査、地球観測、有人宇宙飛行にかかわる基本合意)
  6. 医療(ADPHC(アブダビ公衆衛生センター)とInstitut Pasteur(生物学・医学研究所)によるMoU)
  7. ジョイント・ベンチャー(アブダビのNPCC(国営石油建設会社)とフランスのTechnip Energies(油田サービス・エンジニアリング大手)によるNT Energies社の設立契約)

 また今次訪問を機に、マクロン大統領はムハンマド大統領に対して、フランス最高位となるレジオン・ドヌール勲章の第一等(グラン・クロワ)を、一方のムハンマド大統領はマクロン大統領にザーイド・メダル(特に二国間関係の発展への功績を称えるもの)をそれぞれ授与した。

 

評価

 フランスにとってUAEは、GCC諸国としてサウジ・カタルに次ぐ武器輸出相手、またカタルに次ぐ直接投資元である。さらに2009年には、UAEの負担でアブダビにフランス軍基地が建設され(旧植民地としては初の海外基地)、近年ではリビア・西アフリカ情勢をめぐって軍事面での協力も見られる等、重層的なパートナーシップが確認できる。そして現在、ウクライナ情勢の余波でロシアが欧州諸国へのエネルギー供給を停止し、記録的な熱波が欧州諸国を覆っている状況に鑑み、マクロン大統領はUAEとのエネルギー分野での関係強化の意義を強調した。UAE側も、こうした期待に応えるように石油供給について触れ、さらには自国の重点分野である宇宙開発や気候変動対策(COP28の成功)に向けた協力の約束をフランスから取り付ける等、ウィンウィンな首脳会談であったことをアピールした。

 もっともタイミングから考えれば、今次会談には16日に行われたバイデン米大統領のサウジ訪問への「当てつけ」のような面が、少なくとも結果として見られる。特に「アラブの春」以降、GCC諸国は人権問題等を理由に外交に制限を課す米国よりも、人権問題等を話題にするが実利的な関係を重視して外交に制限は課さないフランスとの関係強化を進めてきた。フランス側も、自国のエネルギー及び防衛産業の需要と雇用を賄うために、米国の中東への関与低下の間隙を縫うように中東、とりわけGCC諸国への接近を図ってきた。バイデン大統領のサウジ訪問と比べて、今次会談が具体的な成果につながるものとなった背景には、こうした事情もある。

 

【参考】

「サウジアラビア:バイデン米大統領のサウジ訪問」『中東かわら版』No.51

(研究員 高尾 賢一郎)

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