№50 米国・イスラエル:バイデン大統領のイスラエル訪問(2)
2022年7月14日、イスラエルのラピード首相と米国のバイデン大統領は直接会談を行い、「米国・イスラエル戦略パートナーシップ・エルサレム共同宣言」に署名した。主な内容は以下の通り。
- 米国とイスラエルは、両国の壊せない結びつき、イスラエルの安全保障に米国が超党派でコミットすることを確認する。
- 米国はあらゆる力でもってイランの核兵器取得の阻止にコミットする。また、他のパートナーと協力し、イランによる攻撃的かつ攪乱的活動に立ち向かう。その活動とは、イランの直接的行動や、ヒズブッラー、ハマース、パレスチナ・イスラーム・ジハード運動(PIJ)など代理勢力やテロ組織を通じた活動である。
- 米国は歴史的な10年間380億ドルMoU(2016年署名、2018年発効)の完全履行を強く支持する。また、両国は、イスラエル領空や米国・イスラエルの安全保障パートナーの領空を防衛するため、高エネルギーレーザーシステムなど最新鋭防衛技術の協力を進める。
- イスラエルは、アブラハム合意の深化と拡大に多大な支援を提供した米国に感謝する。
- 米国とイスラエルは、インド・UAEを含めた4カ国オンライン首脳会合に参加し、経済や戦略的インフラの分野での協力を前進できたことを歓迎する。(注:14日、4カ国は水資源、エネルギー、運輸、宇宙、保健、食料安全保障の分野への共同投資で合意した)
- 米国とイスラエルは、イスラエル・ボイコット運動、イスラエルの自衛権の否定、イスラエルを国際組織の場で糾弾することを拒否する。
- 米国とイスラエルは、イスラエル・パレスチナ関係における課題や機会を継続的に議論する。ハマースなどによるイスラエル市民に対するテロ攻撃を非難する。バイデン大統領は長きにわたる二国家解決案への支持を確認する。米国はこの目標に向けてイスラエル、パレスチナ自治政府、地域諸主体と協働する準備がある。
署名後の共同会見では、イランの核問題に対する両国の姿勢の違いが現われた。ラピード首相兼外相は、バイデン大統領に向かって言葉(外交)だけではイランの核開発を止められないと述べ、ブラフではなく、確実な軍事的脅威をイランに与えることも必要だと述べた。その後、バイデン大統領は、外交がイランの核兵器取得を防ぐ最善の方法であると述べた。
評価
ラピード首相とバイデン大統領の直接会談では、予想通りイラン問題を中心に議論された。イスラエルでは、右派・左派を問わず、イランの脅威に対して軍事的に対抗する政策が支持される傾向にあり、ラピード首相(政治的には中道)も軍事的手段の必要性をバイデン大統領に改めて伝えた。しかし、同大統領は、13日のインタビューではイランに対する武力の使用をほのめかしたものの、14日の会見では外交の重要性を強調し、米国とイスラエルの違いが浮き彫りとなった。米国とイランが互いに譲歩できない要求を主張し、核合意再建協議が長引くほど、イランが核兵器を取得するまでの時間(ブレイクアウト・タイム)は縮小する。イスラエルは、自国が同意できる内容で再合意に至らない限り、地域内のイラン権益(シリア国内のイラン系民兵拠点、レバノン国内のヒズブッラー拠点、イラン国内の革命防衛隊関連人物・施設)を攻撃する方針を継続すると思われる。
イスラエル・パレスチナ関係については、今後も議論するという言及に留まり、和平交渉再開に向けた具体的な提案はなかった。米国や地域全体でパレスチナ問題の優先順位が低下した現状に鑑みると、予想された結果ではあった。バイデン政権は、トランプ時代に悪化したパレスチナ関係の改善に前向きな姿勢を見せてきたが、イラン問題での地域諸国との協力を優先したということであろう。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「米国・イスラエル:バイデン大統領のイスラエル訪問(1)」2022年度No.49(2022年7月14日)
(上席研究員 金谷 美紗)
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