中東かわら版

№49 米国・イスラエル:バイデン大統領のイスラエル訪問(1)

 2022年7月13日、米国のバイデン大統領は2日間の予定でイスラエル訪問を開始した。バイデン氏にとって大統領としては初めての中東訪問となる。15日にはサウジアラビアに向かい、リヤドでのGCC+3(エジプト、ヨルダン、イラク)サミットに出席する予定である。

 バイデン大統領は、ベングリオン空港での歓迎セレモニーでスピーチを行い、イスラエル・米国関係は非常に深い繋がりであり、米国のイスラエルの安全へのコミットメントは揺るぎないと述べた。セレモニーには、ラピード首相兼外相、ベネット前首相、ヘルツォグ大統領、ネタニヤフ元首相が出席した。その後、空港内で「アロー」、「ダビデスリング」、「アイアン・ドーム」、「アイアン・ビーム」といった対空防衛システムの展示を見学し、エルサレム市内のホロコースト博物館(ヤド・ヴァシェム)を訪問した。

 また、13日、イスラエルのテレビ局・Channel 12は、バイデン大統領のイスラエル出発前に行った大統領へのインタビューを放映した。要旨は以下の通り。

 

(1)イラン核合意(JCPOA)再建協議について

  • 今のイランより唯一危険な事は、核兵器を保有したイランである。JCPOAからの離脱はと てつもない過ちだった。イランは以前より核兵器保有に近づいているが、米国がJCPOAに復帰することでイランを止められる。
  • イラン側のJCPOA再建の条件がイラン革命防衛隊の外国テロリスト組織指定からの除外であるなら、米国は協議から撤退する可能性がある。米国のJCPOA復帰はイラン次第である。
  • イランの核開発を止める最終的な手段として、武力を用いる可能性はある。

(2)ラピード首相兼外相またはベネット前首相から、イスラエルがイランの核施設を単独で攻撃しないという確約を得たか

  • それについては話さない。米国が仮に対イラン軍事作戦を実施する場合にイスラエルが参加する可能性についても話さない。

(3)イスラエル・サウジアラビア訪問について

  • 米国は、中東から撤退し、ロシアと中国に中東における権力の空白を埋めさせることはしない。中東の安定は米国の圧倒的利益である。
  • イスラエルが中東地域に統合されることはイスラエルの利益でもある。イスラエルが地域の平等なパートナーとして統合されれば、パレスチナとの和解が実現する手段になるだろう。

(4)イスラエル・サウジ関係

  • 両国が互いの存在を受け入れられるよう関係を強化することを私は理解できる。しかし、関係正常化は長期を要するだろう。

(5)米民主党左派のイスラエル批判について

  • (イスラエルはアパルトヘイト国家であると主張し、対イスラエル軍事援助の削減を要求する民主党員は)少なく、彼らは間違っている。イスラエルは民主主義国で、我々の同盟国、友人である。民主党がイスラエルに背を向けることはありえない。

 

評価

 今次訪問では、イスラエルとサウジアラビアという外交関係を持たない両国について、何らかの関係改善に関する合意が発表されるのではないかと予想されている。2020年の「アブラハム合意」(イスラエルとUAE、バハレーン、モロッコ、スーダンとの関係正常化合意)後、イスラエルとアラブ諸国の経済協力が進展する中で、イスラエルとサウジアラビアとの関係も水面下で進展しつつあると報道されてきたからである。また、ネゲブ・サミットの開催、ガンツ国防相の「中東防空同盟」発言、ヨルダンのアブドッラー2世国王による中東版NATOの結成を支持する発言もあり、イスラエルを含む中東諸国による軍事・治安協力枠組みが形成される可能性も取り沙汰された。しかし、これまでに、バイデン大統領、米国務省高官、エジプトのシュクリー外相から、今次訪問中にイスラエル・サウジ間の関係正常化や軍事同盟の発表はないとの発言が聞かれている。両国の公式な関係改善の現実的な第一歩としては、イスラエルのアラブ人ムスリムがハッジに際してテルアビブ・ジェッダ直行便を利用できるようにする案が、米国を含めイスラエル・サウジ間で議論されているようである。

 Channel 12局のインタビューでは、バイデン大統領が前の民主党政権のオバマ時代にイスラエル関係が冷え込んだことを踏まえてか、イスラエルの安全保障へのコミットメントに加え、民主党左派のイスラエル批判を「間違い」と指摘したことが注目される。このような親イスラエル姿勢は歴代の米国政権に共通する特徴だが、和平交渉の再開を希望するパレスチナ側には失望の言葉として受け止められるだろう。また、JCPOA再建協議に関しては、米国・イラン双方が譲歩しない立場であることが改めて確認された。武力使用の発言は、その可能性がいかなるものであれ、米国はイランの核兵器保有を断固拒否する姿勢を伝える意味合いが大きいであろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イスラエル:ネゲブ・サミット運営委員会初回会合をマナーマで実施」2022年度No.42(2022年6月28日)

・「イスラエル:アラブ諸国外相と多国間会談「ネゲブ・サミット」を開催」2021年度No.133(2022年3月29日)

 

<中東トピックス>【会員限定】

・「サウジアラビア:バイデン米大統領のサウジ訪問をめぐる思惑」、「エジプト:湾岸アラブ諸国との活発な首脳外交」『中東トピックス(2022年6月)』T22-03(2022年7月6日)

(上席研究員 金谷 美紗)

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