中東かわら版

№48 イラン:ロシアとの金融・銀行、運輸、エネルギー等の分野での関係強化に向けた動き

 2022年1月19日のライーシー大統領によるロシア訪問以降、イランとロシアとの関係は多分野で強化されてきた。両国首脳は1月と6月の2度会談しており、これと別に外相会談も3月と6月に2度行われた他、閣僚級の往来も見られる(下表)。

 

表 最近のイラン・ロシア関係を巡る動き(2022年1~7月)

時期

内容

1月19~20日

ライーシー大統領がロシアでプーチン大統領と会談し、イラン・ロシア二国間協力協定の更新・格上げ等について協議(『中東かわら版』No.106)。

3月15日

アブドゥルラヒヤーン外相がロシアでラブロフ外相と会談し、イラン核合意再建で得られる経済的利益が対ロ経済制裁と無関係であることを確認。

5月25日

オウジー石油相がテヘランで、ロシアのノヴァク副首相とエネルギー・銀行分野の関係協力に関するMoUを締結、石油・ガス分野での合同事業、及び、自国通貨で決済するシステムの構築について合意。

6月23日

ラブロフ外相がテヘランでアブドゥルラヒヤーン外相と会談し、ロシアがイラン核合意再建を支持する立場を表明。

6月29日

ライーシー大統領がトルクメニスタンで行われたカスピ海沿岸5カ国首脳会議のサイドでプーチン大統領と会談(『中東かわら版』No.45)。

7月9日

サーレフアーバーディー中央銀行総裁がロシアでノヴァク副首相らと会談し、金融・銀行分野での関係強化について協議。

 (出所)公開情報をもとに筆者作成。

 

 具体的に、直近の両国首脳会談では、自国通貨を用いた金融・銀行関係、国際南北輸送回廊、及び、スワップ取引を含むエネルギー分野での関係拡大等について協議された。

 以下は、断片的ながらも、最近のイラン・ロシア間での関係強化に向けた動きについてとりまとめたものである。

 

自国通貨を用いた金融・銀行関係

  • 7月9日、モスクワ訪問を終えたサーレフアーバーディー中央銀行総裁は、「現在、イランはSWIFTに代わる、自国通貨を用いた銀行間決済の仕組みを活用しており、ロシアもまた、自国の同様の仕組みを有しており、これらを基に二国間の銀行協力が可能となる」と発言した

 

国際南北輸送回廊

  • 7月11日、イラン国営船会社IRISLは、国際南北輸送回廊(※注)を用いて、コンテナ300個分のイラン産品を輸出したと発表した

※注:国際南北輸送回廊とは、インドからペルシャ湾、イラン、カスピ海を通って、ロシアまでを連結する複合輸送ルート。

 

スワップ取引を含むエネルギー分野での関係拡大

  • 5月25日、オウジー石油相は、イラン・ロシア間での石油とガスのスワップ取引について協議した

 

イランからロシアへのドローン供与計画

  • 7月11日、米国のサリヴァン国家安全保障担当大統領補佐官は記者団に対し、イランはロシアに対して、ドローン数百機の供与を検討しているとの情報があると発言した

評価

 イランが米国からの厳しい軍事・経済的圧力を受ける中で、ロシアと接近する動きが顕著となっている。一方のロシアも、欧米各国から厳しい経済制裁を科されていることから、お互いが活路を見出すべく近づいている構図だ。欧米各国からの対ロ経済制裁は当面解除される兆しが見えないことから、ロシアが、金融・銀行、運輸、エネルギー等の多分野での関係強化を求めてゆく可能性は高い。

 こうした中、イラン・中国関係とは対照的に、ロシアはイラン国内産品の購入先とはならず、自活するための代替策の模索を図ると考えられる。この背景には、中国がイランに比して圧倒的に経済的に優位にあるのとは異なり、ロシア財政も経済制裁によって悪化していることがある。ロシアが、イラン産の天然資源や工業産品を一方的に購入するというわけにはいかない。このため、ロシアとしては、代替輸出入ルートの開拓、ドルやユーロではない自国通貨を用いた決済システムの構築、及び、エネルギー分野でのスワップ取引等の具体的方途を模索することになりそうだ。

 一方のイランとしても、これらの関係強化を通じてロシアとの経済・貿易関係を拡大し歳入確保を実現できることに加えて、イラン核合意再建に向けた協議に代表される、国際的な合意形成が求められる事案でロシアからの政治的支援を得られるメリットがある。今後の留意点としては、イランがロシアへの表立った軍事支援に舵を切るかどうかがある。サリヴァン大統領補佐官の発言は、既にドローン供与が開始されたことを意味しないものの、もしイランがロシアに対して非殺傷兵器に留まらない軍事支援に踏み切れば、戦況にも少なからぬ影響を与える他、国際的に大きな非難を集めることになる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:ライーシー大統領のロシア訪問の意味」2021年度No.106(2022年1月25日)

・「イラン:ウクライナ問題への反応」2021年度No.114(2022年2月24日)

・「イラン:ライーシー大統領がロシアのプーチン大統領と会談」2022年度No.45(2022年7月1日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「イランの「ルック・イースト」政策から見る外交方針」R22-03

(研究員 青木 健太)

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