中東かわら版

№47 アフガニスタン:ウラマー大会議が3日間開催、11項目の宣言書を採択

 2022年6月30日~7月2日の3日間、ウラマー(イスラーム知識人)大会議が首都カーブルで開催され、11項目の宣言書が採択された。7月1日、これまで公衆の面前にほとんど現れなかったアーホンドザーダ指導者が登壇したことがとりわけ注目を集めた。

 今次会議は、全国34州から3500名を超えるウラマーが一堂に会し、アフガニスタンが直面する様々な課題について協議し、ターリバーン暫定政権に議論の結果を伝える諮問的な位置づけの会合である。ターリバーンの呼びかけにより各郡から3名(ウラマー2名、部族長老1名)が参加したが、一部メディアでは全体的に代表性を欠く人選に基づいており、女性の参加者も一人もいないと批判の声が伝えられた

 7月1日、アーホンドザーダ指導者が演説し、ジハードは成功しアフガニスタンは自由と独立を達成したと述べた上で、ウラマー同士の団結、シャリーア(イスラーム法)に則った統治、他国からの内政不干渉等を呼びかけた。同指導者の演説を含め、今次会議の内容は国営ラジオで音声のみが伝えられた。

 7月2日、参加者によって採択された宣言書の概要は、以下の通りである。

 

  • イスラーム統治への支持を表明。
  • アフガニスタン・イスラーム首長国(注:ターリバーン)への忠誠を表明。
  • 国際社会からイスラーム首長国の政府承認を呼びかけ。
  • イスラーム首長国が発出したケシ栽培禁止令への支持(注:『中東かわら版』No.5)表明。
  • 他国への内政不干渉を表明。同時に、他国からアフガニスタンへの内政不干渉を要請。
  • イスラーム首長国への反逆行為への厳格な対応を要求。
  • 反乱を扇動するダーイシュ(注:「イスラーム国」)への支援や関係構築の禁止。
  • ウラマーがソーシャルメディア等で有害な議論をし、国民に分断を引き起こす行為の禁止。
  • イスラーム首長国が公正を実現し、シャリーアの範囲において、宗教・近代教育、保健、農業、産業、少数民族や女性や子どもの権利を遵守することを呼びかけ。
  • イスラーム首長国指導部が国家の団結に尽力し、失業・貧困対策を施すことを要求。
  • 在外アフガニスタン人の帰国を呼びかけ。

(出所)各種公開情報を元に筆者作成。

 

 一方で、アフガニスタン国内外では、全ての民族・政治派閥の政治参加、女子中等教育の再開等の国民が重要視する議題がほとんど議論されなかったことに対して多くの批判が寄せられた。7月1日、イスラーム党のヘクマティヤール指導者も、もし女子教育が再開されないならば、多くのアフガニスタン人が国を離れるだろうと苦言を呈した。

評価

 今次会議は、国家的事項に関する決定を下すためアフガニスタンで伝統的に開催されてきたロヤ・ジルガ(部族大会議)ではなく、ターリバーンが各地から自派に近しいウラマーらを招集した大会議である。ターリバーンが主張する大義名分がどのようなものであれ、内実としてはターリバーンによる「官製集会」といった趣を強く有するものであり、アフガニスタン社会内部から批判の声が数多く出されている事実がこのことを雄弁に物語っている。武力で政権を奪取したターリバーンが今後正統性を獲得する上では、民意を反映した政治体制であることを示す必要がある。しかし、ターリバーンはイスラーム統治の実現を掲げ、民主主義を拒絶する。こうした背景から、今次会議は包摂的政権の成立や女性の権利保障に関する議論に進展をもたらすのではと注目を集めたが、そのような淡い期待は無情にも裏切られた形だ。

 今次会議の意味をターリバーン側の観点から評価するならば、暫定政権発足から1周年を迎えようかというタイミングで、自派を支持する保守層(宗教指導者、部族長老、等)から改めて忠誠・支持を取り付けた点は、権力基盤の盤石さを示す点で大きな成果であろう。特に、表に姿を現すことのなかったアーホンドザーダ指導者自身が会場を訪れ、参加者らの前で演説したことは、ターリバーン指導部中枢も今次会議を重視していたことを示唆している。

 一方で、女子中等教育の再開を希望していた多くの人々にとり、今次会議で女性の権利についてほとんど議論されなかったことは落胆せざるを得ないものだった。現時点において、ターリバーンは他勢力に根幹的な権力分与をする意志がなく、女性の権利保障についても積極的に議論する意向を有していないように見受けられる。今次会議で改めて示されたこれらの事実は、平和を望むアフガニスタン人、並びに、対話を通じて妥協点を模索する諸外国に突き付けられた厳しい現実だといえる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:アフガン暦新年を迎えるも、ターリバーンが女子教育再開を撤回」2021年度No.129(2022年3月24日)

・「アフガニスタン:ターリバーンがケシ栽培禁止令を発出するも実効性に疑問符」2022年度No.5(2022年4月7日)

・「アフガニスタン:ターリバーンがヒジャーブ着用を義務化」2022年度No.15(2022年5月11日)

(研究員 青木 健太)

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