№46 リビア:石油輸出停止の長期化
2022年6月30日、リビア国営石油会社(NOC)は、東部のシドラ及びラス・ラヌーフ石油輸出港や南西部のフィール油田に対し、操業停止に係る不可抗力を宣言した。4月中旬以来、東部のズウェイティーナ・ブレガ両石油輸出港などの主要石油施設で妨害活動が相次ぎ、全土で石油をほとんど輸出できない状況である。
NOCによると、損失額は160億ディナール以上にのぼる。また、石油生産時の随伴ガスを火力発電所に供給できなくなったことで、電力不足問題が深刻化している。石油輸出停止の長期化により、産油量は減少傾向にあり、この先、5月時の71万バーレル/日量(bpd)から更に低下する見通しである(図)。
図 産油量の推移(2022年1月~5月)
(出所)石油輸出国機構(OPEC)の公表データをもとに筆者作成。
評価
今般、石油輸出停止が長期化している背景には、石油施設を封鎖している妨害主体が政治的な要求を掲げていることがある。彼らは東部勢力の意向に沿うように、トリポリ拠点の国民統一政府(GNU)が退陣し、バーシャーガー内閣(※東部議会の承認により発足)に政府権限を移譲することを要求している。一方のダバイバGNU首相は、次期選挙の実施まで政権運営を続ける方針を示し、譲歩しない構えであるため、封鎖解除の見通しが立っていない。こうした状況下、紛争解決の政治行程「リビア政治対話フォーラム(LPDF)」で定められたGNUの政権任期は6月に満期を迎え、GNUの存続自体も正当性を欠くこととなり、政治的混乱が広がっている。
石油輸出停止の長期化は、リビアから石油を輸入する欧州諸国にも影響を及ぼしている。EU統計局(Eurostat)の今年3月時の統計によると、リビア産石油の主要購入国はイタリア、ドイツ、スペイン、フランス、オーストリアである。これらの国々は対ロシア制裁の一環で、ロシアからのエネルギー輸入の見合わせを検討する中、リビアからの調達にも支障が生じている。そしてロシアとの関係で留意すべき点は、リビアで封鎖中の石油施設がある地域は、ロシアの支持を受けるハフタルが率いるリビア国民軍(LNA)の支配エリアに位置し、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が駐留していることだ。現時点でロシアや「ワグネル」がリビアの石油施設の封鎖に関与したとの事実は確認できないものの、リビア国内の政治闘争が結果として、欧州諸国に石油調達を困難とさせており、今後もエネルギー面での脱ロシア政策の足かせとなる恐れもある。
【参考情報】
<中東かわら版>
・「リビア:全土での石油輸出の停止」No.11(2022年4月19日)
<中東分析レポート>【会員限定】
・「民間軍事会社「ワグネル」の中東・アフリカ進出――地中海からアフリカに広がるロシアの影響力――」R22-04(2022年3月)
(研究員 高橋 雅英)
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