中東かわら版

№45 イラン:ライーシー大統領がロシアのプーチン大統領と会談

 2022年6月29日、ライーシー大統領はアシュガバード(トルクメニスタン)で、ロシアのプーチン大統領と会談した。今次会談は、同日開催されたカスピ海沿岸5カ国首脳会議のサイドラインで行われたものであり、両首脳の直接会談は本年1月19~20日以来である(詳細は『中東かわら版』2021年度No.106参照)。

 イラン外務省の発表によれば、ライーシー大統領は今次会談において、イランはロシアとの関係を戦略的なものと捉えていると述べ、特に貿易・エネルギー分野での協力拡大を希望する旨発言した。同大統領は、具体的に国際南北輸送回廊(INSTC)の名前を挙げつつ、スワップ取引を含めたエネルギー分野での両国関係の拡大、西側の財政システムから独立した自国通貨を用いた金融・銀行関係の構築を推し進めたい考えを示した。

 一方、ロシア外務省の発表によれば、プーチン大統領は同会談で、昨年の両国間の貿易量は、前年比81%増であり、第1四半期だけ見ればこの数字から更に31%の増加であるとのデータを示しつつ、イランと密接な貿易関係を築いていることを強調した

評価

 最近のイラン・ロシア関係の拡大は顕著であり、今次会談は、両国がともに経済制裁で苦しむ中、今後更に戦略的関係を深めたいとの意図を確認するものである。本年1月のライーシー大統領によるロシア訪問以降も、両国は、外相電話会談(2月8日、14日、3月7日、5月19日、6月3日)、外相同士の直接会談(3月15日、6月23日)、首脳電話会談(2月24日、6月8日)等の要人往来・電話会談を通じ、緊密な関係を維持してきていた。今次会談に先立つ5月25日には、オウジー石油相がロシアのノヴァク副首相と、エネルギー・銀行分野の関係協力に関するMoUを締結し、石油・ガス分野での合同事業、及び、自国通貨で決済するシステムの構築について合意を交わしていた

 今回特に注目されるのは、両国が自国通貨で金融・銀行業務を行う体制を構築する動きである。本年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以降、各国は厳しい対ロ経済制裁を科してきた。これにより、ロシアから撤退する欧米企業が相次ぐとともに、ロシアは自国の天然資源・農畜産品の輸出に制限を受ける状態が続いている。こうした中、ロシアとしては現下の危機を乗り切るための必要な代替策を講じていると見られる。同様に、イランの立場から見ても、2018年5月に始まった米国による「最大限の圧力」キャンペーンで厳しい銀行・原油取引制限を科されており、ロシアとの経済・貿易関係拡大は財政状況の好転に資する。変動する国際環境を受けて、両国は思惑を一致させながら接近しており、この動きは当面続くと考えられる。

 とはいえ、イランはウクライナとの関係も軽視はしておらず、ロシア・ウクライナ戦争が対話を通じて平和的に解決することを望む立場を表明している。今次会談の翌30日には、アブドゥルラヒヤーン外相がウクライナのクレーバ外相と電話会談し、戦争に反対するイランの基本的立場を繰り返しながら、ライーシー大統領とプーチン大統領の会談のフォローをした。この意味では、イランがロシアを全面的に支持する立場を示しているわけではない点には留意が必要である。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:ライーシー大統領のロシア訪問の意味」2021年度No.106(2022年1月25日)

・「イラン:ウクライナ問題への反応」2021年度No.114(2022年2月24日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「イランの「ルック・イースト」政策から見る外交方針」R22-03

(研究員 青木 健太)

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