中東かわら版

№44 モロッコ:スペインからガス輸入の開始

 2022年6月28日、スペイン企業「Enagas」は、スペイン・モロッコ間を結ぶ「マグリブ・ヨーロッパ・ガスパイプライン(MEG)」を通じて、モロッコへのガス輸出を開始した。この背景には、アルジェリアが昨年11月にガス供給を停止したMEGを、スペインとモロッコが再活用するとの思惑がある。アルジェリアは、西サハラ問題をめぐるモロッコとの関係悪化を理由にモロッコ領内を通るMEGを停止し、全てのスペイン向けガス輸出を「メドガス・ガスパイプライン」経由か、液化天然ガス(LNG)で行ってきた。しかし、ガス不足問題に直面したモロッコは、スペインが輸入したガスをMEG経由で受け取ろうと模索していた。

 スペイン・モロッコ間のエネルギー協力について、両国と対立するアルジェリアのアルカーブ・エネルギー鉱業相は4月、スペインがアルジェリアから輸入したガスを第三国に提供した場合、契約上の違反行為であるとして、スペイン向けガス供給を停止すると警告していた。こうした懸念から、スペインは、今回モロッコに輸出したガスはアルジェリア産でない点を強調している。

 

図 アルジェリア・スペイン間のガスパイプライン網とガス供給の流れ 

                  (出所)筆者作成。

 

評価 

 アルジェリアは昨年8月のモロッコとの断交以降、ガス供給停止を通じてモロッコに圧力をかけてきた。またスペインに対しても、スペインが西サハラ問題でモロッコ寄りの立場を表明した今年3月以来、ガス価格の引き上げや「メドガス・ガスパイプライン」の停止の可能性を示唆するなど、対決姿勢を強めてきた。こうした状況下、モロッコとスペインはアルジェリアからの揺さぶりに屈せず、エネルギー協力を着々と進めている。モロッコとしては、国内でLNG受入基地を整備できていない以上、スペインからMEG経由の調達に頼らざるを得ない。

 今後、アルジェリアが対抗措置に踏み切るかが注目される。アルジェリアは現時点で反応を示していないが、4月にスペイン向けガス供給の停止条件として、自国産ガスがスペインから第三国に渡るケースに言及していた。ただ、スペイン側がアルジェリア産ガスの転送を否定する中、アルジェリアがスペインへのガス供給停止を強行すれば、ガス供給国としての国際的信用度を著しく失う恐れがある。他方、スペインは対モロッコ関係を重視しつつも、対ロシア制裁の一環でロシア産ガス(2022年4月時:ガス輸入の約8%)の輸入を減らしていく必要があるため、アルジェリアからの全面的な輸入停止は避けたいのが本音であろう。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「アルジェリア:モロッコ迂回のガス供給体制の構築へ」No.57(2021年9月6日)

・「アルジェリア:スペイン向けガス売却価格の引き上げへ」No.7(2022年4月11日)

・「アルジェリア:スペインとの友好協定及び貿易の停止」No.31(2022年6月10日)

 

<中東トピックス>【会員限定】

・「モロッコ:西サハラ問題でスペインと関係改善へ」No.T21-12(2022年3月号)

・「アルジェリア:スペイン向けガス供給の停止を示唆」No.T22-01(2022年4月号)

  

(研究員 高橋 雅英)

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