中東かわら版

№42 イスラエル:ネゲブ・サミット運営委員会初回会合をマナーマで実施

 2022年6月27日、「ネゲブ・サミット」の運営委員会初回会合がバハレーンのマナーマで行われ、米国、イスラエル、エジプト、モロッコ、バハレーン、UAEの代表団が参加した。米国からはバーバラ・リーフ国務次官補(中近東担当)、イスラエルからはウシュピッツ外務次官、ジョセフ外務省中東・和平プロセス局長が出席した。ネゲブ・サミットとは、今年3月、イスラエルのネゲブ地方で開催されたイスラエルとアラブ諸国の地域安全保障会議で、イスラエルとアラブ諸国の関係正常化によって実現した多国間枠組みである。米国務省が発表した共同声明によると、運営委員会会合で以下が決定された。

  • ネゲブ・サミットの目的:参加国の集団的努力の調整、地域に関する共通の展望を提案する。
  • 外相会合:ネゲブ・サミットの中心的意思決定組織。年1回開催を基本とし、2022年中に次回会合を開催する。
  • 議長国:次回外相会合までイスラエルが務める。
  • 運営委員会:ネゲブ・サミットの運営を担当する実務部門。
  • 作業部会:クリーン・エネルギー、教育・共存、食料・水安全保障、保健、地域安全保障、観光という6つの作業部会を設置し、定期的に会合を開催する。各作業部会の長は、会合内容を運営委員会に報告する。

 また、共同声明には、ネゲブ・サミット参加国は、イスラエルと隣国の関係改善をイスラエル・パレスチナ間の公正で永続的かつ包括的な平和を達成する努力に利用することを確認したと記された。

 

評価

 ネゲブ・サミットはイスラエルとアラブ諸国が地域的問題で協力する歴史的な多国間枠組みだが、それがいよいよ始動したと言える。この枠組みは、当然ながらイランの地域的影響力への対応が目的である。共同宣言に組み込まれたイスラエル・パレスチナ和平の推進は、イスラエル・アラブ間の協調が進めば論理的には可能だが、残念ながらパレスチナへの外交的配慮と判断せざるを得ない。

 最近では、ネゲブ・サミット以外にも、イスラエルとアラブ諸国の対イラン協調が進む。6月26日付『Wall Street Journal』は、3月のいずれかの時に、米国主催でイスラエル、サウジ、カタル、エジプト、UAE、バハレーン、ヨルダンの国防関係者がエジプトのシャルム・シェイフに集まり、イランの弾道ミサイルや無人機の脅威について協議したと報じた。米国からマッケンジー中央軍司令官(当時)、イスラエルからコハヴィ参謀総長、サウジからはファイヤード・ビン・ハーミド・ルワイリー参謀総長が出席したという。この会合に関する内容かどうは不明ながらも、ガンツ国防相は6月20日、イスラエルと中東諸国は米国のリーダーシップの下、イランの脅威に対抗するための「中東防空同盟」に向けて行動中であると明かし、バイデン大統領の中東訪問においてこの件が議論されることを望むと述べた。

 そのバイデン大統領は7月13日からイスラエルとサウジを訪問し、この日程に合わせてサウジにおいてGCC+3(エジプト、イラク、ヨルダン)会合が開催される予定である。バイデン大統領の訪問中に「中東防空同盟」が発表されるのか、または一部メディアが報じるようにイスラエルとサウジの関係正常化に類する合意が実現するのか注目される。

 今後、ネゲブ・サミットがイスラエル・アラブ諸国間の公式な協力枠組みとなれば、上記の対イラン協調が促進される可能性も高くなる。イスラエルはそれを望むが、イラン核合意再建協議が再開された場合は、イランを意識したイスラエル・アラブ諸国間の協調がどのような役割を果たしうるのか、不明な点は残る。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記もご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:ボレルEU上級代表によるテヘラン訪問を経て、核合意再建に向けた協議再開が決定」No.41、2022年6月28日。

・「イスラエル:アラブ諸国外相と多国間会談「ネゲブ・サミット」を開催」No.133、2022年3月29日。

(上席研究員 金谷 美紗)

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