№38 イスラエル:ベネット首相とラピード外相が国会解散を発表
2022年6月20日、ベネット首相とラピード外相は記者会見を開き、来週に国会解散と選挙の実施を決定すると発表した。国会解散が正式に決定された後は、首相輪番制の連立政権合意に基づき、ラピード外相が次の新内閣成立まで首相を務める。イスラエルでは、政党間対立、特に右派内の対立が原因で組閣交渉や予算案審議が紛糾し、2019年から4回も国会選挙が行われた。今回の国会解散によって、3年間で5回目の選挙が行われることになる。
ベネット首相は記者会見において、現連立政権は、政策対立より国家の利益を優先し、ネタニヤフ政権時代の民主主義を軽視する行動からイスラエルを救った「良い政府」であったと評価した。また、国会解散を決定した直接的理由は、6月末に期限を迎える西岸地区入植者に国内法を適用する緊急措置の延長をめぐり、リクードが本来は延長に賛成の立場であるにもかかわらず、採決であえて反対票を投じたことを指摘した。ベネット首相は治安機関幹部から緊急措置が期限切れを迎えれば西岸が混乱に陥るとの警告を受けたことを明かし、国会解散によって緊急措置を自動的に6カ月延長する方法を利用して、イスラエルの安全のために国会解散を決定したと述べた。そして、緊急措置延長の問題を政争に利用したリクードを非難した。
野党の宗教右派やユダヤ教超正統派は、国会解散はイスラエル政治にユダヤ性を取り戻す機会になるとしてこれを歓迎した。連立政権を5月に離脱したヤミナ党のシルマン議員は、右派・ユダヤ的・ナショナリストな新政権に参加できることを神に感謝するとツイートした。
首相による国会解散は基本法「政府」第29条に該当するため、来週に国会解散が官報に公示されれば、10月中旬に議会選挙が行われる見通しである。
評価
ベネット首相が国会解散という決定に踏み切らざるを得なかった理由には、発足当初から辛うじて多数派(61議席)を確保していた連立政権から離脱者が現われ、少数派内閣に転じてしまったことがある。ベネット首相の出身政党・ヤミナ党のシルマン議員(4月)、オルバッハ議員(6月)、左派メレツ党のズアビー議員(4月)が連立を離脱した結果、連立与党議席数は59になってしまった。東エルサレム情勢の緊迫化、国家宗教関係の変更を求める宗教右派に政府が応じなかったこと、首相がアラブ系政党の主張に配慮したことが、連立内の右派・左派の一部に不満をもたらしたためである。こうした連立危機の時に、緊急措置延長に対するリクードの妨害があり、ベネット首相は国会解散を決定した。
ベネット政権は、政策指向性や思想が異なる8党が、反ネタニヤフという共通目標のために連立合意に至った点で画期的であった。しかし、裏返せば反ネタニヤフだけが8党を結びつける動機であり、政策指向性の違いがそのまま崩壊の原因になったといえる。
最新の支持政党世論調査ではリクードが1位である。議会選挙が行われた場合はリクードが35議席を確保し、リクードと良好な関係にある右派・宗教政党(リクード、宗教シオニズム党、統一ユダヤ・トーラー連合、シャス)と合わせて60議席を得ると予想されている。とはいえ、今回の連立崩壊は2019年以降の連立危機と同じく右派内部の対立が根本にあるため、リクードは組閣において自党と対立する右派政党とも交渉せざるを得ず、難航が予想される。
【参考情報】
*関連情報として、下記もご参照ください。
<中東かわら版>
・「イスラエル:連立政権の危機」No.21、2022年5月20日。
・「イスラエル:ベネット内閣の成立」No.28、2021年6月15日。
・「イスラエル:2年間で4回目の総選挙の結果」No.147、2021年3月26日。
・「イスラエル:第23期クネセトの解散、再び総選挙へ」No.120、2020年12月24日。
(上席研究員 金谷 美紗)
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