中東かわら版

№37 イスラエル・エジプト:欧州への天然ガス輸出に関する協力合意

 2022年6月15日、イスラエル、エジプト、EUは、カイロで行われた第7回東地中海ガスフォーラム(EMGF)閣僚級会合において、欧州への天然ガス輸出を目的としたガス田開発及び輸出拡大の協力に関する覚書に署名した。署名式典には、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長、イスラエルのエルハラル・エネルギー相、エジプトのムッラー石油・鉱物資源相、シムソン欧州委員会エネルギー担当委員などが参加した。

 EU諸国はロシアへのエネルギー依存からの脱却を図っており、その一環でエジプトとイスラエルから天然ガスを輸入するため今次合意に至った。イスラエルはエジプトに天然ガスをパイプラインで輸出し、エジプトのLNG施設で液化した後、タンカーで欧州諸国に輸出する。イスラエルにとっては、初めて欧州に天然ガスを輸出することになる。EUは、欧州企業に対し、天然ガス開発や輸出の拡大での支援を促進する。今次合意では、イスラエル産ガスの欧州への年間輸出量は発表されていない。

 

評価

 EU諸国は対ロシア制裁措置としてロシアからの原油輸入を停止したが、エネルギー資源の代替輸入先として東地中海地域に注目している。理由は、欧州との地理的近さとエジプトにLNG施設があることである。エジプトのイドクとダミエッタには地中海で唯一の天然ガス液化施設があり、エジプトを拠点にLNGを欧州へ海路で輸出できる。

イスラエルは、レバイアサン・ガス田とタマル・ガス田で生産された天然ガスを2020年1月からエジプト国内市場向けに輸出を開始したが、今次合意によって、欧州向けにも輸出することになる。これが可能となったのは、エジプトの排他的経済水域(EEZ)内にあるゾフル・ガス田(地中海で最大規模の埋蔵量を誇る)で生産が開始され、エジプトが天然ガス輸出国に転じたことや、ウクライナ危機でEU諸国が早急にエネルギー資源の代替輸入先を確保する必要に迫られた事情があるだろう。

 今後、欧州へのガス輸出拡大に向けて、エジプトのLNG施設の拡大や機能改善に諸外国からの投資が集まると予想される。また、イスラエルとキプロスのガス田とギリシャを結ぶ「東地中海ガスパイプライン」構想(EastMed)は、パイプラインによる欧州へのガス輸出を可能にする計画だが、莫大な投資と建設期間を要する。現在の欧州におけるエネルギー危機がEastMed構想を前進させるかどうかにも注目したい。

(上席研究員 金谷 美紗)

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