中東かわら版

№35 イラン:ベネズエラと20カ年包括的戦略協力文書を締結

 2022年6月11日、ベネズエラのマドゥーロ大統領は、ライーシー大統領と20カ年包括的戦略協力文書に署名した。中東(トルコ、アルジェリア)を歴訪中の同大統領は、10~11日の2日間、複数の国務大臣らを引き連れてイランを訪問した。20カ年包括的戦略協力文書は、科学・技術、農業、エネルギー、石油・ガス、石油化学製品、観光、文化等の幅広い分野を包含するものだが、具体的な内容は明らかにされていない。共同記者会見に臨んだライーシー大統領は、両国関係を「戦略的」と呼び、米国からの脅迫と制裁にもかかわらずベネズエラは抵抗していると称賛した。また、マドゥーロ大統領は、7月18日からテヘラン-カラカス間の直行便就航の計画を発表した。ハーメネイー最高指導者も同大統領と面会し、「抵抗こそ米国からの圧力に対する唯一の解決策だ」と発言し、ベネズエラに寄り添う姿勢を鮮明にした。

評価

 近年、イランとベネズエラの関係は次第に深まってきた。2020年5月下旬~6月、イランは複数回にわけて、石油の不足に悩むベネズエラ向けに原油を輸出した。2022年5月にも、ライーシー大統領はオウジー石油相をベネズエラに派遣し、石油の採掘、生産、精製、技術移転等に係る覚書を締結させていた。今般、イラン・ベネズエラ間で20カ年包括的戦略協力文書が署名されたことで、両国関係は新しい段階に入った。

 両国が接近する背景には、米国が両国に厳しい対応を取っていることがある。トランプ米前政権は2018年5月にイラン核合意から単独離脱し、「最大限の圧力」キャンペーンの名の下、銀行・原油取引制限を課した。これにより、イランの海外機関との金融取引は麻痺し、コロナ禍の経済縮小も重なって財政が逼迫した。一方のベネズエラも、チャベス政権(2002~2013年)以降、反米に転じたことで、米国から原油禁輸を含む厳しい経済制裁を受けてきた。さらには、2021年6月に当選したライーシー大統領が「均衡の取れた外交」政策を掲げ、東側諸国との関係強化に傾いたこともこれを後押しした。実際、イランと中露との接近は顕著だ。イランに対して徹底的に軍事・経済的圧力をかける米国の対外政策が、結果として、イランを中国、ロシア、ベネズエラに近づけている。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東分析レポート>【会員限定】

・「イランの「ルック・イースト」政策から見る外交方針」R22-03

(研究員 青木 健太)

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