中東かわら版

№34 リビア:トルコ軍のリビア派兵期間の延長

 2022年6月13日、トルコのエルドアン大統領は、リビアにおけるトルコ軍の任務期間を延長する方針を固め、派兵延長に係る大統領法案を議会に付託した。議会での採決を経て、7月2日より18カ月の派兵延長が認められる見通しである。トルコのリビア派兵は、2019年11月にトリポリ拠点の当時・国民合意政府(GNA)との軍事協力に係る覚書に基づき、2020年1月の議会承認を経て、行われたものである。その後、トルコは2021年1月にも派兵期間を18カ月延長し、今回は2回目の延長措置である。

 エルドアン大統領はリビア派兵に関連して、GNAが国連仲介のリビア政治合意(LPA)の下で発足した点に言及し、国連承認の正統な政府、GNAからの要請に基づき派兵した点を強調した。また派兵の目的は、国際法の枠組みの中でトルコの国益を守り、リビアの違法な武装集団から生じる安全保障上のリスクに対して、あらゆる必要な予防措置を講じるためだと説明した。

評価

 リビアにおけるトルコ軍の駐留問題は、紛争解決上の大きな争点となっている。トルコは2020年1月、GNAがハフタル率いるリビア国民軍(LNA)の攻勢を受けて劣勢な立場にあったことから紛争に本格介入し、LNAをトリポリ周辺から後退させ、GNAの政権存続に貢献した。しかし、トルコ軍は停戦合意(2020年10月)以降も、GNAへの訓練提供を目的に軍事アドバイザーをリビアに駐留させたり、西部ワティーヤ空軍基地の軍事拠点化を進めたりするなど、軍事的プレゼンスの維持を図っている。これに対し、欧米諸国はリビア和平に関するベルリン会合(2021年6月)やパリ会合(同年11月)で、リビアの安定化に向けて、全ての外国軍及び傭兵がリビアから撤退する必要性を強調し、トルコにも対応を迫ってきた。

 トルコ軍がリビア駐留を継続する主な理由は、トルコがリビアとの海洋境界画定に係る覚書を維持するためである。トルコは2019年11月にGNAと同覚書に調印し、東地中海沖でのガス田開発に乗り出した。同覚書の効力は、GNAが2021年3月に権限移譲した現政府・国民統一政府(GNU)下でも維持されている。トルコはGNAや後継政府のGNUに軍事支援を提供することで、その見返りとして、国連承認の両政府に同覚書を遵守させてきたと言える。

 他方、東地中海沖でのガス田開発にはトルコ以外の国も関与しており、ギリシャやエジプト、フランスなどが参加する「東地中海ガスフォーラム(EMGF)」は、トルコ・リビア間の海洋境界画定に反発している。特にフランスは、同国のトタルエナジーズ社がキプロス周辺でガス権益を保持するため、トルコの海洋進出に警戒心を強めている。両国は、リビア紛争やシリア紛争でも異なる勢力を支援したことで対立関係にあることから、今般のエルドアン大統領によるリビア派兵延長の方針が、フランス・トルコ関係を更に悪化させる要因となるとともに、トルコが関係改善を進めるエジプト及びUAEとの関係にも影響を及ぼすかが注目される。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「トルコ・リビア:軍事・海洋境界合意による東地中海諸国の対立」No.164(2019年12月27日)

・「リビア:リビアに関する第2回ベルリン会合」No.35(2021年6月24日)

・「リビア:リビアに関するパリ会合」No.82(2021年11月15日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「リビア紛争:外国軍及び外国人傭兵の駐留問題」R21-09(2021年11月)

・「フランスの中東政策の新指針――湾岸諸国との関係強化の狙い――」R21-13(2022年3月)

(研究員 高橋 雅英)

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