中東かわら版

№33 イラン:革命防衛隊員・科学者らの相次ぐ不審死

 2022年6月12日、革命防衛隊航空宇宙軍のアリー・カマーニー技師が、中央部マルキャジー州で死亡する事件が発生した。革命防衛隊州支部は、カマーニー技師が任務中の自動車事故で「殉死」したと発表した。また、同日、中央部セムナーン州でも、同隊航空宇宙軍のムハンマド・アブドゥース技師が、任務中に「殉死」した。

 イランでは、5月末から、革命防衛隊員・科学者らの相次ぐ不審死が発生している(下表)。

 

表 最近の革命防衛隊員・科学者らの死亡事件一覧

日付

氏名

所属・役職

死亡の事由

5月22日

ハサン・サヤード・ホダーイー

革命防衛隊ゴドス部隊大佐

テヘラン州でバイクに乗った犯人2名により射殺。

5月25日

エフサーン・ガドベイギー

パールチーン軍複合施設技師

テヘラン州で爆発により死亡。

5月30日

アリー・イスマーイールザーデ

革命防衛隊ゴドス部隊大佐

アルボルズ州でバルコニーから転落死、自殺と報道。「イラン・インターナショナル」は、革命防衛隊が同人をイスラエルとの内通の嫌疑で処刑した可能性を報道。

5月31日

アユーブ・エンテザーリー

航空技術者

ヤズド州で急速に容体が悪化、死亡。「NYT」紙はイスラエルによる毒殺の可能性を報道。

6月2日

カームラーン・アーガーモラーイー

地質学者

テヘラン州で急速に容体が悪化、死亡。「NYT」紙はイスラエルによる毒殺の可能性を報道。

6月12日

アリー・カマーニー

革命防衛隊航空宇宙軍技師

マルキャジー州で自動車事故で死亡と発表。

6月12日

ムハンマド・アブドゥース

革命防衛隊航空宇宙軍技師

セムナーン州で任務中に死亡と発表。

(出所)公開情報を元に筆者作成。

 

 5月22日、革命防衛隊ゴドス部隊のホダーイー大佐が、テヘラン市内の自宅近くで、正体不明の武装勢力2名によって射殺される事件が発生した(『中東かわら版』No.24参照)。その後の5月25日、パールチーン軍複合施設で爆発が発生して技師1名が死亡した他、5月30日にも革命防衛隊ゴドス部隊大佐が、バルコニーから転落死したと報じられた。5月31日と6月2日には、科学者2名の容体が急速に悪化し、死に至ったと報道された。6月13日付「ニューヨークタイムズ」(NYT)紙は、イラン当局が、イスラエルが食べ物に毒を仕込んでこの科学者2名を殺害したと信じていると伝えた。同紙によると、死亡した科学者の1人であるエンテザーリー氏は、航空技術学の博士号を取得し、政府関係の研究センターで勤務していた。

 これを受けて、ライーシー大統領は6月12日にホダーイー大佐の遺族との面会で、「テロ行為の発生は、敵(注:イスラエルを指すと推測される)の卑劣さと窮状の証である」と発言し、イスラエルを牽制した。また、13日、ジャフロミー政府報道官は、「イラン国民の安全はイランのレッド・ラインである。イランは、もしシオニスト体制(注:イスラエル)による外部からの攻撃があれば、必要な報復を断固として行う」と述べ、イスラエルに警告した。

評価

 過去にも、イラン国内ではナタンズ核関連施設が何者かに攻撃を受ける事案などが多発してきた。このようにイランの権益が狙われること自体には前例があり、珍しいことではない。しかし今回の一連の不審死では、革命防衛隊の対外的な諜報・破壊活動に関与する者や、軍事研究に関わった者が殺害されたり、「殉死」したりしている。6月12日の事件が最後になる保証はどこにもなく、今後も同様の事態が起こる懸念もあることから注目を要する。

 現状、ホダーイー大佐の射殺事件を含め、いずれの事件についても実行を主張する主体は存在していない。このため、犯行主体は不明のままである。しかし、イラン政府高官の発言を見る限り、イランは一連の不審死(一部を除く)の実行主体をイスラエルと断定しており、復讐を仄めかしている。

 実行主体が未確定な中、イランが抑制的、且つ、慎重な姿勢を堅持する可能性もある。しかし、イラク北部のクルディスタン人自治州では、イランによるイスラエルの「戦略的拠点」に対する攻撃が散発的に発生しており、シリア領内でもイスラエルによる「イランの民兵」に対する攻撃は頻発している。一方で、核合意再建に向けた機運も低下している。このような全体の状況に鑑みれば、イランとイスラエルとの間の低烈度の紛争が、何かをきっかけに激化する恐れを否定することはできないことから、今後、充分な警戒が必要である。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:革命防衛隊ゴドス部隊大佐の射殺事件がテヘランで発生」2022年度No.24(2022年5月23日)

・「イラク:イスラエルとのあらゆる関係構築を禁じる法案が可決」2022年度No.26(2022年5月27日)

(研究員 青木 健太)

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