中東かわら版

№30 イラン:IAEA非難決議の採択とイランの反応

 2022年6月8日、国際原子力機関(IAEA)理事会は、イランを非難する決議を賛成多数で採択した。IAEAがイランを非難する決議を採択するのは、2020年6月以来、約2年ぶりである。同決議案は、米・英・独・仏の4カ国によって準備が進められたもので、イラン国内の未申告の3施設で核物質が検出されたことを問題視し、イランが説明責任を果たしていないと非難する内容である。30カ国が賛成した一方、ロシアと中国の2カ国は反対票を投じ、インド、パキスタン、リビアの3カ国が棄権した。

 これを受けて、イラン原子力庁は同日、イランがこれまで善良な意志に基づき真摯に協力してきたにもかかわらずIAEAが非難決議を採択したことを非難するとともに、IAEAが保障措置協定を基に核施設に設置した監視カメラ2基を停止したと発表した。キャマールヴァンディ原子力庁報道官は、イラン側の要求が認められない限り、査察活動を通じて収集されたデータを共有しないと述べ、追加の措置も検討していると警告した。また、ハティーブザーデ外務報道官も、イラン側の対応は、比例原則に基づき、確固たるものになるだろうと示唆した。

評価

 イランがIAEA非難決議に対して強い反応を示す背景には、IAEAがイスラエルの助言に耳を傾けて偏向した立場を取っていると受け止めていることがある。先立つ6月3日、IAEAのグロッシ事務局長がイスラエルを訪問し、ベネット首相らと会談していた。同会談で、ベネット首相は、イランは虚偽と偽りによって国際社会を欺き続けている、イランによる核兵器保有をあらゆる手段を用いて阻止しなければならない、未申告の核施設について次回の理事会で取り上げるべきだ、と力説したと伝えられる。この直後の7日に、米・英・独・仏が非難決議案をIAEA理事会に提出した。イランとしては、IAEAとの協力を続けてきたにもかかわらず裏切られたと受け止めざるを得ないことが、今回の強硬な反応につながっている。

 もっとも、IAEA理事会が採択した理由に、イランが充分な説明をしてこなかったことがあるため、イラン側の主張を額面通り受け止めることはできない。現在、イランは、米国の核合意離脱への対応として、ウラン濃縮度を60%まで引き上げている他、高性能の遠心分離機を据え付けている。そして、今回、IAEAの査察を制限する対応を取った。「核の平和利用」という大義との齟齬をきたさないためにも、イラン側には説明責任と透明性を持った真摯な対応が求められる。

 今後、今次の非難決議の採択が、IAEAとイランとの関係、並びに、ウィーンで行われる核合意再建に向けたイラン・米間接協議に悪影響を及ぼさないかが懸念される。また、6月8日、イラク北部のクルディスタン人自治区の都市エルビルで、無人機による攻撃が発生し、3名が負傷したと報じられた。2つの出来事の間の相関関係は不明である。しかし、本件の根底には、イランと欧米諸国・イスラエルとの根深い不信感が横たわっていることから、将来、地域情勢の不安定化に波及しないかを見極める必要がある。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:IAEA非難決議の採択と今後の見通し」2020年度No.35(2020年6月22日)

・「イラク:イスラエルとのあらゆる関係構築を禁じる法案が可決」2022年度No.26(2022年5月27日)

(研究員 青木 健太)

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