中東かわら版

№28 イエメン:国連による2カ月間の停戦延長発表をフーシー派が評価

 2022年6月2日、国連のグルントベルク・イエメン担当特使は、同日に期限を迎えたイエメン全土での停戦合意の2カ月間延長に各勢力が合意したと発表した。前回4月2日の停戦合意の際、和平ムードをほとんど醸さなかった武装勢力アンサールッラー(通称フーシー派)だが、今次合意に際しては早々に「市民の苦しみを和らげるためのもの」との声明がマシャート政治局長から出され、これを評価する姿勢を示した。また同政治局長は、今次合意が「交通の再開、空路輸送の継続、船舶のスムーズな往来を可能にする」と述べ、これが順守されるよう徹底して監視すると述べた。

 

評価

 少なくとも4月の停戦合意に比べ、フーシー派は今次合意を評価している様子が見られる。この背景にあるのは、前回合意以降、戦況が同派にとって優位な方向に動いたとの認識だろう。すなわち、敵対する統一政府のハーディー大統領が4月7日に事実上の辞任に追い込まれたこと、また拠点とするサナアの国際空港が5月15日に商用便の発着を開始したことである。

 ハーディー大統領が権限を委譲した大統領指導評議会は、統一政府を支援してきたサウジ及びUAEの意向を反映した組織であり、フーシー派と対立関係にあることに変わりない。しかしサウジが平和的解決も含めた終戦を見据える一方、ハーディー大統領はフーシー派を討伐した上での自身の政治的基盤の確立にこだわっていた。この点、サウジ・国連がハーディーをパージする形で状況打開に努めたことは、フーシー派にとって「成果」と位置づけられる。また商用便の再開(5月31日までに計6便、アンマン及びカイロとの往復)による経済封鎖の緩和は、上記成果によってフーシー派が得た、支配地域の人心掌握のための重要な要素の一つである。この点も、やはり同派にとって今次合意を自身の功績として喧伝が可能なものとしている。

 前回合意後と同様、今回も停戦合意期間にフーシー派と統一政府(ないしサウジ)が互いの合意違反を指摘し、舌戦を繰り広げる可能性はもちろんある。一方、フーシー派がイエメン戦争の「落としどころ」を見つけるのに吝かでない状況ができつつあるのも事実である。

 

【参考】

「イエメン:大統領指導評議会の設立、概要と背景」『中東トピックス』No.T22-01(※会員限定)

「イエメン:2カ月間の停戦合意報道も和平ムード醸成の機運は見られず」『中東かわら版』

No.2

(研究員 高尾 賢一郎)

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