中東かわら版

№23 カタル:タミーム首長の欧州歴訪、ウクライナ情勢等を受けたLNG輸出の促進

 2022年5月16日、タミーム首長は22~26日にスイスで開催される世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)への参加にあわせた欧州歴訪を開始、16日にスロベニア、17日にスペイン、20日にドイツを訪問した。

 スロベニアではパホル大統領と会談し、同国での起業、海外投資、科学技術の促進に関するMoUが関連機関との間で締結された他、エネルギー分野で関係強化を進めることを確認した。

 スペインではヒル上院議長を訪問し、議会・司法分野での協力について協議した他、フェリペ6世国王との晩餐会ではスペインへの50億ドルの投資計画について発表した。翌18日には同首長、サンチェス首相立ち合いの下、教育・医療・司法、またエネルギー分野での関係強化に関する各種協定やMoUが締結された。なおスペイン訪問では、ジャワーヒル首長妃が(初と報じられる)頭髪を露わにした洋装でタミーム首長に同伴し、フェリペ6世とレティシア王妃主催の晩餐会に参加したことが世間の耳目を集めた。

 ドイツではシュタインマイアー大統領、ショルツ首相との会談を経て、カタルからドイツへのLNG輸出にかかわる合意に至ったと発表された。タミーム首長との共同記者会見でショルツ首相は、カタルとの関係強化がドイツのLNG輸入増に向けた戦略的なステップであると強調した。これにあわせてドイツはLNG貯蔵基地の新設を急ぎ、カタルは2024年にドイツへのLNG輸出を開始予定とすること等が伝えられた。

 

評価 

 ダボス会議参加の一環であり、各国との外交関係樹立50周年という事情を踏まえれば、タミーム首長の欧州歴訪はともすれば形式的なものにも映る。一方で述べたように、各国での主要議題の一つはエネルギー分野での関係強化であり、これは現下のウクライナ情勢を反映したものである。とりわけドイツは、ウクライナ戦争前のロシアへのエネルギー依存率(35%とも言われる)を下げるべく、同分野での新しいパートナーを必要としている。米国、オーストラリアとともにLNG輸出量のトップを競うカタルとの各種合意は自然な流れと言えよう。

 スペインに関しては、同国がアルジェリアからのガス供給の停止を警戒していることも背景として重要だ。これはスペインが西サハラ領有問題でモロッコとの関係改善を進めたためである。ドイツと異なり、LNG貯蔵基地が豊富なスペインとしては、アルジェリアとのさらなる関係悪化に備える上で、カタルとの関係強化は重要な意味を持ちうる。

 一方のカタルとしては、天然ガス輸出を主体とした貿易を長らく展開している点は周知の通りである。加えてヘッジ政策(policy of hedging)とも呼ばれる、自国に敵意を向ける勢力を極力減らすことを目標とした外交姿勢に基づき、ロシア・アルジェリアとの関係維持の一方でドイツ・スペインに「助舟」を出すのは常套の手法である。その上で、両国が見せている現下の脱ロシア・アルジェリアの動きは、カタルにとってエネルギー輸出国としてのプレゼンスを向上させる格好の機会と言えるだろう。

 

【参考】

「アルジェリア:スペイン向けガス売却価格の引き上げへ」『中東かわら版』No.7

「アルジェリア:スペイン向けガス供給の停止を示唆」『中東トピックス』No.T22-01(2022年4月号)。※会員限定

(研究員 高尾 賢一郎)

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