中東かわら版

№24 イラン:革命防衛隊ゴドス部隊大佐の射殺事件がテヘランで発生

 2022年5月22日、革命防衛隊ゴドス部隊のハサン・サヤード・ホダーイー大佐が、正体不明の武装勢力2名によって射殺される事件が発生した。22日付『IRNA通信』(国営通信)によると、テヘラン市内において、バイクに乗った犯人2名が、帰宅途中のホダーイー大佐に銃弾5発を浴びせた。現地メディアでは、事件発生直後の、白い乗用車の運転席で血塗れになるホダーイー大佐の骸が写真付きで報じられた。

 同日、革命防衛隊は、今回の事件が発生したことを認め、「世界の傲慢」(筆者注:抑圧者たる米国やイスラエルを示唆する)と関係する分子が背後にいるとの見解を示した。また、国家最高安全保障評議会寄りのメディア『ヌール・ニュース』は、今次事件はイランの「レッド・ライン」を越えるものであり、犯罪の加害者は高い代償を支払うことになると警告を発した。ハティーブザーデ外務報道官も同日、今次事件を非人道的犯罪と呼び強く非難した。一方で、5月22日付『タイムス・オブ・イスラエル』によれば、イスラエルのガンツ国防省は記者から質問を受けて「これに言及はしない」と関与を認めていない由である。

評価

 今次事件からは、犯行主体が、イランによるシリアやレバノンの非国家主体に対する水面下の支援を牽制する狙いが透けて見える。

 現時点で、今次事件に対する犯行声明は出されておらず、加害者が誰で、どのような意図をもって実行されたのかは不明である。しかし、事件の背景を知る上で手がかりとなるのが被害者の素性である。ホダーイー大佐は革命防衛隊ゴドス部隊に所属し、シリアとレバノン方面で活動していたと伝えられる。ゴドス部隊とは、革命防衛隊の諜報・工作部門で、イランが支援する他国の主にシーア派組織への支援・訓練・助言、及び、対外的な破壊工作を担う機関である。このため、イランによる地域での不安定化活動が事件の背景にある可能性はある。

 今後の動きが注目されるが、犯行主体が特定されていない以上、イランが報復対象を的確に定めて実行に移すことは容易ではない。イラン当局としては、先ずは犯人逮捕に向けて捜査に全力を挙げつつ、犯行主体を特定することになるだろう。同時に、白昼堂々とこのような暗殺事件が首都で発生したことはイラン当局にとってはあってはならない醜態であり、仮に外国勢力が背後にいる場合は主権の侵害に当たるため、汚名返上を果たす意思は強いと考えられる。

 なお、イランでは、過去にも核科学者暗殺事件や核関連施設への破壊活動が幾度も発生してきた。これらは、外国の諜報機関員、あるいはその代理人が、イラン国内で暗躍していることを示唆しており、中東域内では今日も暗闘が繰り広げられていることを示している。

(研究員 青木 健太)

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