中東かわら版

№22 ヨルダン:ハムザ王子の連絡、居住地、移動を制限する王宮令の発出

 2022年5月20日、アブドッラー2世国王は、異母弟で元皇太子のハムザ王子について、連絡、居住地、移動を制限する王宮令を発出した。ハムザ王子は、2021年4月、「国を不安定化する企て」を行ったとして自宅軟禁に処せられ、その後、2022年3月には自ら王子の称号を放棄すると発表していた。こうした出来事を経ての今回の王宮令となる。長い文面には、国王自らがハムザ王子と話し合い、忍耐と自制でもって王子の「過ち」を正し、信頼関係を回復する努力を行ったが、王子は個人的利益を優先し、ハーシム家の歴史に傷をつけ、国を不安定化したと記された。以下は、王宮令におけるアブドッラー2世国王の国民向け書簡の要旨である。

  • 昨年(2021年4月)、私の弟ハムザの反逆が明らかになった時、私は家族内でこの問題に対処することを選び、彼が誤りを正し、ハーシム家の責任あるメンバーとなることを望んだ。しかし1年以上が経ち、彼は変わらなかった。彼は自己欺瞞にあり、我々の国家制度を攻撃している。
  • 私は過去数年間、最大限の寛容と自制と忍耐でもって弟に対応してきた。彼は、皇太子を憲法の規定通りにするとの私の決定(※2004年にハムザを皇太子位から外し、フセインを皇太子に任命したこと)を受け入れると述べたが、その後、彼は、私、家族の伝統、我が国の制度に対して敵対的な行動をとるようになった。彼の周りには、この決定への反対を勧める人物が取り巻くようになった。軍指導部や同僚からも、彼の傲慢な態度への不満の声を聞いた。叔父のハサン・ビン・タラール王子殿下がハムザと何回か会い、関係修復のアドバイスを提示したが、無駄に終わった。
  • 彼は事実の無視、自らの過ちの否定を何度も繰り返し、国を不安定化させた。それは(2022年)1月15日に彼が私に送った手紙からも明らかだ。(2022年4月、)合同参謀本部議長が約束の時間にハムザを訪問したにもかかわらず、彼は予告なしに来訪したことに驚いたと主張し、事実を意図的に歪めた。裏切り者のバーシム・アワダッラーとハサン・ビン・ザーイドが2つの外国公館にヨルダンの国家転覆を支援できるか尋ねたことを知りながら、彼らとの疑わしい関係を続けた。外国メディアに王室を傷つけるメッセージを送りつけるという王室の歴史で前例のない行為をし、我々の家族の歴史とヨルダンの価値を傷つけた。彼の行動は、アブドッラー1世国王以来のハーシム家の規範と伝統に反する。
  • ハムザは法的解決を望んだため、彼が結果を受け入れるなら可能だと答え、法的解決を試みた。彼の要望で、ファイサル・ビン・フセイン王子殿下とアリー・ビン・フセイン王子殿下の同席の下、私はハムザと会い、信頼回復の方法を議論した。しかし、数週間後、彼はタイトル付与と剥奪は国王専権と知りながら、ソーシャル・メディアで王子の称号を放棄すると発表した。
  • イード・アル=フィトルの礼拝行事の際、ハムザは礼拝の式次第を無視してスピーチを試み、王立警備隊と対立した。彼が危機を作り出したいことは明らかだ。
  • 国家の利益より個人の利益を優先する人物を何があっても許すことはできない。私はヨルダン全体の私の家族とヨルダン国家の利益を守る義務と責任を果たすため、王室法によって設置された委員会の助言、すなわちハムザ王子の連絡、居住地、移動を制限する旨を承認した。同助言は昨年(2021年)12月23日に出されたが、私はハムザに行動を振り返る機会を与えるため承認を延期していた。彼が再び攻撃的なメッセージを発信しても私は驚かない。その場合はすぐに対応する。ハムザは国、制度、家族を攻撃し、ヨルダンの安定を損なった。

 

評価 

 上記の通り、アブドッラー2世国王の書簡はハムザ王子を強く非難する内容となっている。また、ハムザ王子は、自身が皇太子位から外されたことを理由に国王と現体制を批判する行動を開始したことがわかった。ハムザ王子による公然の王室批判はアブドッラー2世体制の威信や正統性を大きく損なったため、国王はこれ以上の逸脱行動を防ぐ目的でハムザ王子に厳しい処分を下したと考えられる。

 外部との連絡と移動、居住地を制限する内容の処分であるため、ハムザ王子が再び王室批判を行うことは難しくなるだろう。また、王子と共に「国を不安定化する企て」を試みたバーシム・アワダッラー元王宮府顧問と王室メンバーのハサン・ビン・ザーイドは、既に禁錮15年の実刑判決を受けており、彼らもハムザ王子と共に行動することは不可能な状態である。今後、アブドッラー2世国王がハムザ王子と近い関係にある部族をいかに体制側に取り込めるかが重要になるだろう。

(上席研究員 金谷 美紗)

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