中東かわら版

№19 リビア:トリポリで東西政府の支持民兵が衝突

 2022年5月17日、トリポリ拠点の国民統一政府(GNU)を支持する民兵と、東部・代表議会(HOR)承認のバーシャーガー内閣を支持する民兵が、トリポリで衝突した。この背景として、GNUはバーシャーガー内閣の正統性を認めず、政府権限の移譲を拒否している中、バーシャーガーがトリポリに入り、政権運営を強行しようとした。戦闘は数時間続いたものの、バーシャーガーが軍事的エスカレーションを避けるためトリポリから離れたことで、収束した。

 今般のGNUの抗戦を受け、バーシャーガーは自身の政府の拠点を、連携するハフタル率いるリビア国民軍(LNA)の支配地域にある中部シルトに置く方針を発表した。

 

評価 

 バーシャーガーがトリポリでの政権運営を試みたのは3月に続き、2度目である。彼がトリポリでの活動に固執する理由は、石油収入の管理権を握るためだと考えられる。現行の決済制度では、リビア国営石油会社(NOC)の輸出を通じて得た石油収入は、最終的にトリポリ拠点の中央銀行の管理下に置かれる。このため、バーシャーガー・ハフタル陣営が東部及び南西部の石油施設を掌握しても石油収入を運用できないことから、トリポリでの政権運営を通じて、中央銀行やリビアNOCの経営体制に介入するのが狙いだろう。

 その一方、石油輸出は4月中旬にGNUの退陣を求める集団の妨害活動により、各地で停止し、再開の目途が立っていない。アウン石油・ガス相によると、産油量は輸出停止前の約120万バーレル/日(bpd)から60万前後まで減少し、1日当たりの経済的損失は推定6000万ドル(※1バーレル100ドルの油価で販売する場合)にのぼる。

 この先もGNUがバーシャーガー内閣への政権移譲に応じる可能性は低いことから、経済面では石油輸出停止の長期化により経済悪化が進み、軍事面ではバーシャーガーが再びトリポリ入りを目指す動きが大規模な武力衝突の引き金になる恐れがある。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「リビア:東部拠点の議会が次期首相を任命」No.113(2022年2月16日)

・「リビア:東部の議会が新政府を承認、再び「1国2政府」へ」No.123(2022年3月8日)

・「リビア:全土での石油輸出の停止」No.11(2022年4月19日)

 

 

(研究員 高橋 雅英)

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