№18 トルコ:フィンランド、スウェーデンのNATO加盟申請に対するトルコの反応
2022年5月16日、エルドアン大統領はフィンランド、スウェーデン両国のNATO加盟申請を支持しない姿勢を明らかにした。
エルドアン大統領は、トルコを公式訪問中のタブーン・アルジェリア大統領との共同記者会見で、「加盟を希望する2カ国は、テロ組織に対する明確な態度を示していない。安全保障機構であるNATOに参加する国がトルコに制裁を科している。トルコはそのような国を受け入れられない。(もし受け入れた場合)NATOは安全保障機構ではなく、テロリストの代表が集う場所になる」と発言した。また、フィンランド、スウェーデンの代表団が近々トルコを訪問し、加盟に向けた協議を希望していることについても「徒労に終わる」と断言した。エルドアン大統領は5月13日にも上記2カ国のNATO加盟に否定的な発言をしており、今次記者会見で改めてトルコの姿勢を示す形となった。
これに先立つ5月14日、チャウシュオール外相は、緊急招集されたNATO外相会議のサイドで、フィンランドのリンデ外相、スウェーデンのハーヴィスト外相と三者協議を行い、エルドアン大統領と同様の見解を表明した。特に、トルコからの分離独立を掲げるクルディスタン労働者党(PKK)へ武器供与等の支援を行っているスウェーデンに対するトルコの不信感を露わにした。
評価
2022年2月24日に始まったロシア軍のウクライナ侵攻を受け、これまで軍事的中立を貫いてきたフィンランド、スウェーデンによるNATO加盟申請正式表明は、米国をはじめ国際社会が歓迎する意向を示している。トルコの反対表明は、こうした歓迎ムードに水を差す形となったが、同加盟申請に関するトルコの立場は明確である。
エルドアン大統領の発言にもあるように、フィンランド、スウェーデン国内には、トルコや欧米諸国がテロ組織に指定するPKK(PKKと同根組織のシリアのクルド人民防衛隊(YPG)も含む)メンバー、関係者が多く移住している。同地において、資金調達や戦闘員の勧誘の他、トルコに対するネガティブキャンペーンが行われ、2019年のトルコへの武器禁輸措置にも影響を与えた。さらに、2016年7月15日のクーデタ未遂事件を引き起こした、フェトフッラー派テロ組織(FETO)のメンバーも多数潜伏しているとみられることから、トルコ政府は神経を尖らせてきた。
こうした状況下、トルコ政府は2カ国にPKK、FETOの容疑者の身柄引き渡しを要求している。その数は、フィンランドが12名(うちFETOメンバー6名、PKK関係者6名)、スウェーデンが21名(うちFETOメンバー10名、PKK関係者11名)の計33名に上る。トルコ側は、いずれの要請も裁判所の判決と証拠に基づいて行われていると主張するが、既に33名中、19名の引き渡しが拒否され、5名については無回答となっている。残る9名に関しては交渉が継続中(フィンランド2名、スウェーデン7名)であるものの、両国とも、はっきりとした意思表示をしていない。
これまでトルコはNATO拡大に関して肯定的な立場を採ってきた。特にバルカン半島諸国の加盟を積極的に推進しているが、今般の北欧2カ国については、トルコの安全保障に多大な影響を与えるため、拒否せざるを得ない。
NATOの正式な一員となるためには、トルコを含む現加盟国30カ国の「全会一致による承認」が必要だが、トルコが反対している状況下、フィンランド、スウェーデン両国の加盟は困難である。加盟を希望する2カ国はもとより、ロシアへの圧力を強化したい欧米側はトルコの説得に動き始めている。とりわけ米国は、トルコが要請するF-16戦闘機の売却に前向きな姿勢を示すことで、トルコとの妥協点を見出そうとしている。
しかしながら、今次問題に関しては、自国の安全保障への脅威となり得る問題をはらむことから、トルコの懸念が解消されない限り、妥協する可能性は低いと考えられる。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東トピックス>【会員限定】
・「トルコ:米国国務省、トルコへのF-16売却に関する書簡を議会に提出」T22-01
(研究員 金子 真夕)
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