中東かわら版

№15 アフガニスタン:ターリバーンがヒジャーブ着用を義務化

 2022年5月7日、ターリバーン暫定政権は、女性がヒジャーブ(頭髪を覆うヴェールの一種)を着用することを義務化した。今次の通達は、アーホンドザーダ最高指導者によって承認されており、ハーレド・ハナフィー宣教・教導・勧善懲悪相を筆頭に幹部7名の署名入り声明によって発表された。

 同声明の要旨は以下の通りである。

 

  • 真のイスラーム教徒と成人した女性にとって、シャリーア(イスラーム法)に則ったヒジャーブの着用は必要な義務である。
  • ヒジャーブは、その上から身体が見えるような薄い布であってはならず、また身体の一部が浮き彫りになるような細いものであってはならない。チャードリー(頭部から足元までを覆うヒジャーブの一種。青や白色が一般的で、日本ではブルカと呼ばれる)は、古来よりアフガニスタン文化の一部であるため、チャードリーが最良のヒジャーブである。
  • ヒジャーブと名付けられた黒い衣装も、シャリーアに即しているが、細かったり、体にぴったりとしてはならない。特別な理由がない場合に家から外に出ないことが、まずもってヒジャーブ着用の遵守を示す最良の証である。
  • マハラム(女性にとって近親の男性家族構成員)以外の男性を扇動しないよう、老人や幼子を除き、女性は両目以外の身体の部分を完全に覆わなくてはならない。
  • 女性がヒジャーブを着用していない場合、第1段階として、その女性の家が特定され、マハラムが勧告を受ける。第2段階として、違反行為が繰り返された場合には、マハラムが関係当局に呼び出される。第3段階として、再び違反行為が繰り返された場合、マハラムは3日間収監される。第4段階として、それでも違反行為が止まない場合、マハラムが裁判所に呼び出されて、適切な刑が処せられる。
  • イスラーム首長国(ターリバーン)の官公庁で勤務する女性で、ヒジャーブを着用しないものは、その職務を停止させられる。

(出所)2022年5月7日付『BBCペルシャ語放送』を参照。なお、項目立ては筆者による。

 

 同日、首都カーブルで行われたターリバーンの会合において、ハーレド宣教・教導・勧善懲悪相は、「アムル・ビル・マアルーフ(善行を指導すること)とは、即ち堕落を防ぐことである」とし、今次通達はクルアーンとハディースに基いて下されたと発言した。

 この発表を受け、諸外国・国連からは厳しい反応が相次いだ。7日、国連アフガニスタン支援ミッションは、今次の決定はターリバーンが全てのアフガニスタン人の人権を尊重し保証するとの公約を破るものだとして「深い懸念」を示した。米国のアミリ・アフガニスタン女性問題担当特使も、ターリバーンは女性と少女を抑圧する政策を続けていると強い言葉で非難した。

 現時点で、アフガニスタン女性らによる市街での小規模な抗議行動が見られる他、ソーシャル・メディア上では、ターリバーンの通達はイスラームの教義を曲解したものであり到底受け入れられないといった声が散見される。

評価

 2021年8月15日にターリバーンが復権して以降、同勢力が第1期「政権」時代(1996~2001年)と同じように「シャリーアを厳格に解釈」した統治を繰り返すかが注目された。今次通達の内容を見ると、女性がヒジャーブを着用しなければ、男性家族構成員が処罰を受ける厳しいものとなっている。実質的に、女性は家にいることを強要され、仮に外出する場合でも両目以外を覆うことを強制された。アフガニスタン国内外からは批判が寄せられ、ターリバーンに厳しい視線が注がれている。今次決定は、ターリバーンと民主主義諸国との間の溝を広げるものとなった。

 今次通達の内容を詳しく見ると、広く報道される内容と若干異なる点が見られる。今次決定に当たり、「チャードリー(ブルカ)着用の義務化」と報道する向きも見られたが、実際の通達ではヒジャーブ着用を義務付けているものの、ターリバーンはチャードリーについては「最良のヒジャーブ」として推奨するにとどめた。多くのイスラーム諸国の中で、頭部から足元までをヴェールで完全に覆うことを、罰則規定を設けて義務付ける国はほとんどない。もしチャードリー着用を義務化すれば、厳し過ぎる措置だとしてイスラーム諸国から反発を招く可能性があった。実際、現時点までにイスラーム諸国から今次決定に対する反応は示されていない。

 これまでもターリバーンは女性にヒジャーブを着用するよう推奨するポスターを掲示してきたが、今回、これの義務化に踏み切ったことはターリバーン内部で強硬派が優勢であることを示唆している。ターリバーンは全国制覇の過程で多くの異なる勢力を取り込んでおり、巨大な組織に成長した。内部には、対外折衝を担う政治部門と、「祖国解放」の立役者を自認する軍事部門があり、権力配分や社会政策等の様々な局面で意見対立が見られる。民心掌握に加えて、現在のターリバーンにとっては、内部の結束が最優先課題である。先般の女子教育の再開撤回の判断や今次のヒジャーブ着用義務化の背景には、ターリバーン内部で極めて保守的な派閥が依然優勢であり、対外的実利よりも内部のパワー・バランスの維持が重視されざるをえない現状が見て取れる。

 もっとも、女性の基本的人権への制限が認められることは断固としてあってはならず、現地の人々が求める社会作りが進められる必要がある。ターリバーンは、これまでの口約と実際の行動を一致させることを迫られている。諸外国・国連としては、ターリバーン側の主張に耳を傾けながらも絶対に譲れない一線を示しつつ、相互がギリギリ妥協できる解決策に向けて、地道な説得を続ける必要がある。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:アフガン暦新年を迎えるも、ターリバーンが女子教育再開を撤回」2021年度No.129(2022年3月24日)

・「アフガニスタン:ターリバーンがケシ栽培禁止令を発出するも実効性に疑問符」2022年度No.5(2022年4月7日)

 

<中東トピックス>【会員限定】

・「アフガニスタン:女性の権利に関する「信徒たちの長」特別法令が発出」T21-09

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「ターリバーン統治の今後の方向性~行動原理と諸課題に着目して~」R21-12

(研究員 青木 健太)

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