中東かわら版

№14 トルコ・サウジアラビア:二国間関係改善に向けた動き(エルドアン大統領のサウジ訪問)

 2022年4月28日、エルドアン大統領はサウジのジェッダを訪問した。現地では同国のサルマーン国王、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子らとイフタール(断食明けの夕食)を共にし、その後は非公開で会談した。翌29日、エルドアン大統領は保健、エネルギー、食糧安全保障、農業技術、防衛産業、金融におけるサウジとの協力強化が共通の利益であるとTwitterに投稿した。また今次訪問に関して、再生可能エネルギーやクリーンエネルギー技術分野におけるトルコ・サウジの協力深化の可能性に言及した他、トルコが湾岸地域の同胞の安定と安全を自国のそれと同様に重視していることを表明した。この上で、政治・軍事・経済のあらゆる面での関係強化を通じて両国関係が「新しい協力の時代」を迎えたと強調した。

 

評価 

 エルドアン大統領のサウジ訪問は2017年7月以来、5年ぶりである。2018年10月に起こったサウジ人ジャーナリストのジャマール・カショギ氏殺害事件以来、トルコ・サウジ関係は悪化していた。しかし2021年にUAE・バハレーン・エジプトといったサウジの同盟国との関係をトルコが改善したのに伴い、トルコ・サウジ関係も緊張緩和に向かった。これを背景に2022年4月1日、トルコ政府はカショギ氏殺害事件で起訴されたサウジ人26人に対する欠席裁判を終了し、サウジに移管するようイスタンブル裁判所に勧告することを明らかにした。これによって同事件に関する審理はリヤド刑事裁判所で行われる運びとなり、少なくともトルコ・サウジ関係におけるカショギ事件は一応の決着を見た。今次訪問は、こうしたトルコの態度軟化を受けて実現したと考えられる。トルコは2021年以降、自国通貨の大幅な続落やエネルギー資源価格の高騰で国内経済が低迷し、エルドアン大統領の支持率も低下している。このため、サウジとの経済関係を含めた協力関係の再構築は、政権にとって是が非でも成し遂げたい成果の一つであり、同大統領の饒舌はそのことを物語っている。

  一方のサウジ側は、今次訪問についてエルドアン大統領ほどには多くを語っていない。これはトルコとの関係改善に慎重な姿勢を維持しているというより、今次訪問があくまでトルコ側の積極的な働きかけによって実現したこと(を、少なくともサウジ側がアピールしたいこと)の裏返しであろう。とはいえ、トルコとの関係改善はサウジにとっても有益であることは間違いない。2021年1月のウラー合意(カタルとの国交回復)以来、サウジは周辺諸国との関係改善を進めることで、イラクの安定化やイエメン戦争の解決等、地域の安全保障環境の再建に取り組んでおり、トルコとの関係改善はこの一環と位置づけられる。コロナ禍からの経済回復を謳う中、2022年第一四半期のトルコからの輸入総額は前年同時期より2.8%増加する等、両国間の経済関係が活発化することもサウジにとっては望ましい事態である。

(研究員 金子 真夕)
(研究員 高尾 賢一郎)

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