中東かわら版

№12 トルコ・イラク:トルコによるイラク北部での新たな軍事作戦とその反応

 2022年4月18日、トルコ国防省はイラク北部のクルディスタン労働者党(PKK)を標的とした新たな軍事作戦を17日夜に開始したと発表した。アカル同相によれば、いずれもトルコ国境至近のムタイナ、ザブ、アファシン、バシヤンを対象に、陸空からの大規模な攻撃を展開中である。これに先立つ15日、イラク・クルディスタン自治政府のマスルール・バルザーニー首相はトルコを訪問し、エルドアン大統領とイスタンブルで会談した。会談では、イラク北部の治安の安定に向けた協力体制について確認したとされ、今次作戦はこれに基づいたものであろう。

 一方、イラクの中央政府(バグダード)からは非難の声が多く上がっている。大統領府及び外務省、またサドル運動のムクタダー・サドル指導者は、トルコの行動はイラクの主権を侵害し、外交関係を損ねるものだとの声明を発出した。この他、アラブ連盟のアブルゲイト事務局長が、一国家の主権を脅かす行為は容認できず、イラク・トルコ関係の緊張を高める恐れがあるとして、トルコ側に作戦停止を呼びかけたと伝えられる。

 

評価 

 トルコによるイラク北部、クルド人武装勢力を標的とした軍事侵攻は継続的に行われており、これ自体は驚くべきことではない。それでも、2021年以降は1月のウラー合意によるアラブ諸国とトルコとの関係改善が追い風となって、トルコ・イラク関係がやや落ち着きを取り戻していたことを考えれば、今次作戦によって時計の針が少し戻ってしまった感がある。

 トルコ側としては、これまでのイラク北部への軍事攻撃により一定の成果が見られること、厳しい冬が明け、PKKが対トルコへの攻撃を活発化させる前に打撃を与えることで、組織壊滅に向けて攻勢をかけたい狙いがあるとみられる。19日、トルコ国防省は、同作戦は順調に進行中で、17日未明の作戦開始以降、26名のPKK戦闘員を「無力化」したと発表した。

 一方のイラク側は、19日にシーア派民兵勢力・バドル機構の設立41周年式典(前身であるバドル旅団の設立を起点とする)を迎え、昨年10月の議会選挙から半年を経ていまだ新大統領が決まらない中、カージミー首相らによって現下の政治的危機を意識した挙国一致が呼びかけられたタイミングでのできごとであった。同勢力で最大勢力となったサドル運動からも強い非難の声が上がったことで、トルコへの警戒心はいずれ誕生する新政府に引き継がれることになるだろう。

(研究員 金子 真夕)
(研究員 高尾 賢一郎)

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