中東かわら版

№11 リビア:全土での石油輸出の停止

 2022年4月17日より、トリポリ拠点の国民統一政府(GNU)の退陣を求める集団が、各地で石油施設に侵入し、操業を妨害している。これを受け、リビア国営石油会社(NOC)は、南部のフィール油田及びシャララ油田、西部のメリータ石油輸出港、そして東部のズウェイティーナ石油輸出港について、契約上の不可抗力を宣言した。さらに、妨害活動は東部のブレガ及びハリーガ両石油輸出港でも展開しており、全土で石油を輸出できない状況となった。この先、国内の産油量は現在の約120万バーレル/日(bpd)前後から大きく減少する見通しである。

 今般、フィール油田を封鎖した集団は「南部リビアの長老たち」と名乗り、GNUに対して、以下3点を要求している。

  • ダバイバGNU首相が退陣すること。
  • GNUがバーシャーガー新内閣(※東部議会の承認により発足)に政府権限を移譲すること。
  • サナアッラーNOC会長の解任と、石油収入の公正な分配を行うこと。

 アルジェリア訪問中のダバイバ首相は18日、石油施設での相次ぐ妨害活動に対し、必要な対策を講じると明言した。

 

評価

 今回の石油輸出の停止は、国内で政治・軍事的緊張が高まる状況下で起きた。政治面では、バーシャーガー新内閣がGNUに政権移譲を迫っており、軍事面ではバーシャーガーとダバイバ首相それぞれを支持する民兵がトリポリ周辺で対立していた。また、ハフタル率いるリビア国民軍(LNA)も、GNU指揮下のリビア軍との対話枠組み「5+5合同軍事委員会」から離脱を発表し、GNUとの対決姿勢を強めていた。

 こうした中、GNUに圧力をかけるため、バーシャーガーとハフタルが石油輸出の妨害措置に踏み切ったと見られる。現時点でLNAが輸出妨害措置を指示したとの発表はない。しかし、いずれの石油施設もLNA支配地域にあり、各地の妨害主体は東部勢力の意向に沿うように、GNUの退陣を求めている。他方、LNAが今次措置を直接実行していない背景には、国民や欧州諸国から批判をかわす狙いがあると考えられる。2020年のLNAによる輸出妨害措置の際、国民が石油収入の低下に伴う経済悪化に不満を募らせ、当時の東西両政府への抗議デモを活発化させた経緯がある。また、欧州諸国はウクライナ危機を受け、ロシア産原油の代替調達を進めている。こうした現状下、リビア産原油を失うことは大きな痛手と捉え、関与した主体を厳しく非難するだろう。

 東部勢力の輸出妨害措置により、2020年10月の停戦合意は破綻の危機に瀕しており、今後、武力衝突が再燃することが懸念される。ダバイバ首相は東部勢力に譲歩せず、石油施設の封鎖解除に向けて、武力行使も含めた対応策を講じる可能性があり、その場合、GNU部隊が石油施設があるLNA支配地域に進攻すると予想される。ただ、石油施設には、LNAと連携する民兵「石油施設警備隊(PFG)」やロシアの民間軍事会社「ワグネル」なども駐留しているため、奪還するのは容易ではない。さらに、GNU部隊の武力行使がLNAに報復攻撃の口実を与え、更なる軍事的エスカレーションを招く恐れがある。以上の点により、ダバイバ首相が退陣、もしくは応戦するかの決断が、今後のリビア情勢の行方を決定づけることになるだろう。

  

【参考情報】

<中東かわら版>

・「リビア:石油輸出の再開」No.82(2020年9月25日)

・「リビア:東部拠点の議会が次期首相を任命」No.113(2022年2月16日)

・「リビア:東部の議会が新政府を承認、再び「1国2政府」へ」No.123(2022年3月8日)

・「リビア:ロシア産ガスの代替調達先としてのリビア」No.127(2022年3月18日)

 

(研究員 高橋 雅英)

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