中東かわら版

№9 イラン:ハーメネイー最高指導者がウィーン協議への対応に言及

 2022年4月12日、ハーメネイー最高指導者はラマダーン月に入って約10日目に際し、三権の長を含む体制責任者ら(革命防衛隊幹部らを含む)を集めてその前で演説した。同演説において、ハーメネイー最高指導者は聴衆に対し、イラン核合意の再建に向けた米国との間接協議(ウィーン協議)の結果如何にかかわらず、執務を続けるよう指示した。

 同演説における、ウィーン協議に関する部分の要旨は以下の通りである。

 

  • アッラーのご加護のおかげで、イラン外交は良い方向に進んでいる。核問題について、貴方がたも承知の通り協議が続いている。過去に私が政府責任者に述べたように、また大統領も強調したように、貴方がたの執務の立案・遂行を、核交渉の行方を待ってから進めるようなことがあっては、絶対にならない。各自の仕事を行いなさい。国の現状を見なさい。現状を踏まえて執務を行いなさい。核交渉は、肯定的な方向、半ば肯定的な方向、あるいは、否定的な方向に向かう可能性があるが、どのような方向に進むのであれ、各自の務めを果たせばよい。
  • 幸いにも、外相とその交渉団は協議の内容について、大統領、及び、国家最高安全保障評議会に逐一報告しており、現在もそれを続けて意思決定し、あらゆる側面を慎重に評価し、検討している。
  • もちろん、我々の交渉団は、抑圧的で過剰な要求をする交渉相手側に対して抵抗しており、また何らの疑いもなく大成功に向けて抵抗を続けるだろう。約束を遵守しないのは、相手側である。現在でも、交渉相手側が約束を遵守せず、その場に留まっている。つまり、合意文書を破った相手側が、そのことにこだわり、さらに袋小路に行き詰っていると感じているのである。我々は、これまで深刻な諸問題を克服してきており、その他の諸問題についてもアッラーのおかげで克服する。

評価

 今次発言は、ウィーン協議が大詰めを迎えていると長らく言われながら、最終局面で停滞する状況においてなされた。本年2月半ば頃、同協議は「数日以内に」妥結する状況だと伝えられていた。3月に入っても、EUのモラ次長が専門家レベルの協議は完了したとの見方を示していた(8日)ものの、ロシアのウクライナ侵攻を受けて交渉は複雑化する様相を呈していた(『中東かわら版』2021年度No.122参照)。

 こうした中での今次の最高指導者の発言からは、仮にウィーン協議が破綻する最悪の事態が生じたとしてもイスラーム共和国体制が存続できるよう、責任者らに備えを呼びかけているようにも見える。上述の発言要旨からは、同最高指導者が欧米諸国に対して根深い不信感を有する様子が色濃く看て取れる。また、革命防衛隊がこれと並行するように軍事衛星打ち上げ(3月8日)、並びに、イラクのエルビルにあるイスラエル情報機関の拠点へのミサイル攻撃(3月13日)を行うなど、強硬姿勢を貫いている。同時に、イラン国内では議会が政府に対してレッド・ラインを引き下げないよう要求している(4月5日)。外務省を中心とする交渉団としては、国内強硬派の声に耳を傾けざるを得ない。こうしたイランの立場からすれば、一方的に合意から離脱した米国側に譲歩を要求し続ける可能性が高い。

 もっとも、今次発言でより重要なことは、ハーメネイー最高指導者がウィーン協議の継続自体を拒否しているわけではないことである。3月30日にも米国は新たに対イラン制裁を科すなど、イラン・米両国が互いを非難する状況に変化が見られない状況下、イランが協議から離脱すると宣言したとしても不思議ではない。しかし、最高指導者が協議の継続自体を認めているという事実は、小さいけれども、少しは前向きなニュースといえるかもしれない。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:核合意再建に向けたウィーン協議の現状」No.4(2022年4月5日)

(研究員 青木 健太)

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