№8 アルジェリア:ロシア依存軽減のため、イタリアへのガス追加輸出に合意
2022年4月11日、タブーン大統領とイタリアのドラギ首相の立ち合いの下、両国の炭化水素公社「Sonatrach」及び「ENI」は、アルジェリア産ガスのイタリアへの追加輸出に係る合意書に署名した。同合意書では、2023年から2024年にかけて、両国間の「トランスメッド・ガスパイプライン」や液化天然ガス(LNG)を通じて90億立法メートルのガスを追加供給し、イタリア向け輸出量を290億立方メートルまで引き上げる計画である。これにより、イタリアへの輸出量は現在比で約50%増える見通しである。
イタリアはロシア産ガスへの依存度(2021年時:40%)が高いことから、エネルギー面での脱ロシア政策を進めるため、アルジェリアのほか、リビアやアゼルバイジャン、カタル、アメリカなどから追加調達を試みている。
評価
欧州各国がロシア産ガスの代替調達先の確保を急ぐ中、今般、アルジェリアはイタリアを支援するため、ガス追加輸出に応じた。この背景として、エネルギー協力に基づく両国間の信頼関係と、西サハラ問題におけるイタリアの中立的な立場が指摘できる。伊ENIはガス開発のほか、石油や再生可能エネルギーの分野にも積極的に進出し、アルジェリアのエネルギー産業を支えている。また、イタリアは西サハラ問題で国連仲介の解決方法を支持し、モロッコの立場に肩入れしていない。アルジェリアとしては、ガス供給を通じてイタリアへの協力姿勢を示すことで、西サハラ問題でモロッコ寄りの態度に転じたスペインに対して、態度変化を促す狙いもあると考えられる。
その一方、アルジェリアと歴史的に友好関係にあるロシアの反応が注目されるが、両国関係がイタリアへのガス供給を理由に悪化することはないだろう。両国はもともと、イタリアのガス市場でシェア争いを繰り広げており、アルジェリア産ガスは安価なロシア産に圧倒され、2013年にはロシア産の割合(45%)がアルジェリア産(20%)を上回った(図)。しかし、両国は外交・軍事面で連携するものの、経済面では市場競争の結果を優先しているため、市場での競合は両国関係の争点になっていない。そのため、アルジェリアが欧米主導の対ロシア制裁に加わらない限り、この先もアルジェリア・ロシアの良好な関係は維持される見通しだ。
図 イタリアのガス輸入におけるロシア及びアルジェリアの割合
(出所)イタリア・エコロジー移行省(MiTE)の統計をもとに筆者作成。
ただ、ガス追加輸出の問題点は、アルジェリア国内でガス需要が急増する中で輸出割り当て分を十分に確保できるかである。アルジェリアの電源構成でガス火力発電の割合が9割を超え、人口増加と経済発展に伴いガス需要は増加傾向である。こうした状況下、補助金による電気料金の低価格化が電力浪費を加速させ、ガス消費を更に増大させる一因となっている。現在、アルジェリアはロシア産ガスの代替供給先としての役割を担っている一方、電力価格の引き上げに躊躇すれば、輸出割り当て分を確保できず、資源収入を拡大させる機会を失う可能性もある。
【参考情報】
<中東かわら版>
・「ウクライナ危機を受け、欧州向けガス輸出の増加方針」No.117(2022年3月1日)
・「スペイン向けガス売却価格の引き上げへ」No.7(2022年4月11日)
<中東研究>
高橋雅英「アルジェリアを取り巻くエネルギー及び治安情勢――石油・ガス産業の課題と周辺諸国の不安定化の影響」『中東研究』第542号、2021年10月。
(研究員 高橋 雅英)
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