中東かわら版

№7 アルジェリア:スペイン向けガス売却価格の引き上げへ

 2022年4月1日、炭化水素公社「Sonatrach」のハッカール総裁は、資源価格が高騰する中でも石油・ガス輸出価格を据え置く方針を示した一方、スペイン向けのガス売却価格に限り、引き上げの可能性を示唆した。7日には、スペインのリベラ第3副首相兼環境移行・人口問題相も、実際にSonatrachが売却価格の引き上げをスペイン側に伝えてきたことを認めた。

 今般、アルジェリアがスペインに対してのみ売却価格を引き上げる背景には、西サハラ問題でのモロッコ・スペイン関係改善があると指摘されている。モロッコ・スペイン関係は、2021年4月に「ポリサリオ戦線」のガーリー書記長がCOVID-19感染によりスペインの病院に入院したことを契機に、著しく悪化した。その後、2022年3月、スペインのサンチェス首相は西サハラ地域の領有権問題において、これまでの中立的な立場からモロッコ寄りの姿勢を表明した(参考:中東トピックス2022年3月号)。さらに、4月7日にはサンチェス首相がモロッコを訪問し、ムハンマド6世国王と二国間の友好関係を確認するなど、両国関係は改善に向かっている。これを受け、ポリサリオ戦線を支援するアルジェリアは、駐スペイン・アルジェリア大使を召還するなど、モロッコ寄りの態度を示すスペインに不満を募らせている。

 

評価

 今般のガス価格の引き上げについて、スペイン側は、価格見直しの交渉は昨年10月に開始され、西サハラ問題をめぐるアルジェリアとの関係悪化が理由でない点を強調している。だが、アルジェリアがスペインのモロッコ寄りの立場表明を強く非難していた経緯から、アルジェリアはスペインに圧力をかけるため、ガス価格引き上げのカードを利用していると言える。

 他方、アルジェリアから反発が想定される中、スペインがモロッコとの緊張緩和に踏み切った背景として、アルジェリアへのガス依存度の低下がある。スペインのアルジェリア産ガス輸入の割合は2021年1月時に全体の44%を占めていたが、同年10月末の「マグリブ・ヨーロッパ・ガスパイプライン」の停止の影響もあり、今年1月時で25%まで低下した(図)。アルジェリアに代わり、最大のガス供給国となったのがアメリカ(35%)である。こうした、長年トップの座にいたアルジェリア産ガスの首位転落は、スペインの政策決定に対するアルジェリアの影響力を弱める一因となっていると考えられる。

図 スペインのガス輸入先 

         (出所)スペイン石油製品戦略備蓄協会(CORES)

 

 欧州各国がエネルギー面での脱ロシア政策を進める現状下、この先、アメリカ産ガスのスペイン流入がより加速することが予想される。スペインは国内6カ所に液化天然ガス(LNG)施設を擁し、LNG貯蔵容量はEU全体の35%に達する。このため、アメリカから輸入したLNGが一旦スペインで再ガス化され、フランス経由のパイプラインで他のヨーロッパ諸国へ輸出することが可能だ。アルジェリアとしては、資源収入が体制基盤である以上、石油・ガス輸出を増加させる必要がある。スペイン市場でシェアを回復させる唯一の方法は停止中の「マグリブ・ヨーロッパ・ガスパイプライン」の再開であるが、アルジェリアは西サハラ問題でモロッコとの対決姿勢を強めてきたあまり、再開に向けて容易に譲歩できない。ただ、アメリカ産ガスのシェア拡大が今後も続くとなれば、アルジェリアは重要な外貨獲得先であるスペイン市場で更に不振に陥る恐れがあるだろう。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「アルジェリア:モロッコ迂回のガス供給体制の構築へ」No.57(2021年9月6日)

 

<中東トピックス>【会員限定】

・「モロッコ:ポリサリオ戦線との緊張が高まる」No.T20-08(2020年11月号)

・「モロッコ:西サハラ問題をめぐりスペインと関係悪化」No.T21-02(2021年5月号)

・「アルジェリア:モロッコとの断交を発表」No.T21-05(2021年8月号)

・「モロッコ:西サハラ問題でスペインと関係改善へ」No.T21-12(2022年3月号)

 

(研究員 高橋 雅英)

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