中東かわら版

№5 アフガニスタン:ターリバーンがケシ栽培禁止令を発出するも実効性に疑問符

 2022年4月3日、ターリバーンのアーホンドザーダ最高指導者は、「ケシ、及び、全ての麻薬栽培禁止に関する信徒たちの長令」と題する声明を発出し、全土でのケシ栽培を禁ずる方針を打ち出した。同声明の概要は以下の通りである。

 

  • 信徒たちの長令に基づき、今次声明の日付以降、全土におけるケシ栽培が厳格に禁止されることを全ての国民に通達する。これ以降、誰も同作物を栽培してはならない。
  • 違反者は、その作物を廃棄・破壊されるとともに、シャリーアに則って裁かれる。
  • また、全土において、アルコール、ヘロイン、メタンフェタミン、タブレットK(注:闇売買されるタブレット形状の薬物)、ハシーシュ等を含む全ての麻薬の使用、輸送、売買、流通、輸入、輸出、並びに、工場での製造が厳に禁じられる。

※パシュトゥー語、ダリー語、英語の3言語で発出された。上記はダリー語版を元に訳出した。

 

 これを受け、4月6日付『トロ・ニュース』(独立系)は、ケシ栽培が盛んな南部で、ケシの取引価格が倍になったと報じた。

評価

 近年、アフガニスタンでは薬物中毒者の数が増加し、同問題は深刻な社会問題となってきた。現代の多くのイスラーム諸国においては、薬物の所持・使用は非合法化されている。前政権との違いを際立たせたいターリバーンにとり、犯罪行為を取り締まり、シャリーアに則り公正で秩序だった社会を築くことは民衆の支持を得るために重要である。ムジャーヒド報道官がパシュトゥー語とダリー語版の声明を先ず発表した点から見ても、基本的に、ターリバーンはアフガニスタン国民向けに今次の表明をしたものと考えられる。

 もっとも、ターリバーンの公式の立場がどうであれ、実態としてケシ栽培を完全に禁止することは非常に難しい。1990年代後半、ターリバーン「政権」が国際社会から厳しい経済制裁を受ける中、麻薬栽培はほぼ唯一の外貨・現金獲得手段として利用された。長らく紛争状態にあるアフガニスタンでは、ケシが今でも最も手軽な換金作物として栽培が続けられている。末端のターリバーン司令官にとってみれば、ケシ栽培禁止を農民に強要すれば強い反発を招くことは必至だ。したがって、今次声明の実効性には大きな疑問符が付く。

 それでもなお、今回ターリバーンがケシ栽培禁止に踏み切った背景には、アフガン在外資産を凍結する欧米・国際機関に対して、非合法薬物禁止をアピールして、制裁解除につなげようとの意図もあろう。国際社会としては、ターリバーン側の表明を額面通り受け止めるのではなく、同派が言動を一致させられるかを慎重に見極める必要がある。

(研究員 青木 健太)

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