中東かわら版

№4 イラン:核合意再建に向けたウィーン協議の現状

 2021年11月下旬にウィーンで再開したイラン・米国間の間接交渉が、大詰めを迎えている。イラン核合意(JCPOA)は、イランに平和的な核利用を認める一方で、制裁解除と引き換えに核開発に制限を加える合意である。中東、ひいては国際社会の平和と安定に結びつくため、ウィーン協議の行方は注目されるが、現状について交渉当事者から公表はなく不明瞭である。

 こうした中、2022年4月4日、アブドゥルラヒヤーン外相は、「もしウィーン協議に停滞があるとすれば、米国側の過剰な要求が原因である・・・(中略)・・・もし米国が現実的に行動すれば、交渉の妥結は可能だ」との立場を表明した。

 以下は、断片的ながらも、ウィーン協議の主だった争点(太字部分)、並びに、想定され得る現状(箇条書き部分)を取り纏めたものである。

 

制裁解除に関わる争点

  • ハーメネイー最高指導者は、「もし米国がイランにJCPOAを遵守させたいのなら、経済制裁を完全に解除しなければならない」との立場を明確にした(2021年2月7日演説)。ライーシー大統領も2021年11月時点でなお制裁解除で妥協をしないと言明しており、イラン側の要求に変更はないと見られる。トランプ政権期にイランに科された制裁は、1500件以上あるといわれる(2021年4月25日付『ブルームバーグ』)。
  • イラン側は、トランプ政権期に引き起こされた経済的損失の補填も求めてきた。
  • 革命防衛隊を、外国テロ組織(FTO)指定から解除するか否かは、イラン・米間の主要な争点である(2022年3月27日『アル=ジャジーラ』)。同争点は、2022年3月にEUのモラ事務次長がテヘラン訪問した際にも議論の遡上に挙がったとされる。

 

核開発プログラムに関わる争点

  • イランが保有することができる、ウラン濃縮に必要な遠心分離機の数量・性能は、JCPOA規定で定められている。イラン側がJCPOAの履行を一部停止する過程で、最新型の遠心分離機を備え付けており、米国側はこれらの破壊を要求している。イランは、JCPOA規定を超える量・濃度の濃縮ウランを貯蔵してもいる。
  • 米国側が、これらの機材・物資を、国際原子力機関(IAEA)の監視下に置くことと引き換えにすることで妥協する選択肢はある。

 

将来的に米国が離脱しない保証に関わる争点

  • イラン側は、バイデン政権の任期満了後も、米国側がJCPOAから離脱しない確固たる保証を要求している。

 

囚人交換に関わる争点

  • 米国のマレー・イラン問題担当特使は2022年1月、イランが拘束する米国人4名を釈放しなければ、ウィーン協議で合意することは難しいと『ロイター』に述べた。
  • 一方で、2022年3月、イランは英国系イラン人2名を、オマーンの仲介により釈放するなどの進展も一部では見られる。

 

ミサイル開発、及び、地域の不安定化活動に関わる争点

  • バイデン大統領が累次用いる「強化」の文言からは、弾道ミサイル開発、及び、代理勢力を通じた地域の不安定化活動を合意に含めたい意向が看取される。また、「延長」の文言からは、サンセット条項の期限を延ばしたい意向も透けて見える。一方で、イランはJCPOAの枠組み自体の再交渉には応じない考えを示している。

 

その他の留意すべき事項

  • ナタンズ核関連施設への攻撃(2020年7月2日、2021年4月11日)、及び、ファフリーザーデ核科学者暗殺事件(2020年11月27日)など、イランが犯行主体をイスラエルと断定する治安事案が続発している。また、イスラエルがシリア領内へのミサイル攻撃で革命防衛隊員2名を殺害(2022年3月8日)したことを受けて、革命防衛隊は3月13日にイラクのエルビルにあるイスラエルの「戦略的中心」に対し、報復攻撃を行った。
  • 米国は同攻撃を問題視し、2022年3月30日、イランが弾道ミサイルの脅威に関与しているとして新たな制裁を科した。米国がウィーン協議と並行して新たな対イラン制裁を発動したことで、イラン・米間の信頼関係の欠如が浮き上がっている。

評価

 本年2月以降、ウィーン協議の当事者から大詰めを迎えているとの話が漏れ伝わってきた。紆余曲折を経ながらも、依然としてウィーン協議が最終局面にあることは確かだろう。こうした中、イランは一貫して、「ボールは米国側にある」との立場を主張している。具体的な争点が何かは不明である。しかし、前述の通り現状を概観してみると、イランが、革命防衛隊のFTO指定からの解除、並びに、将来的に米国が離脱しない保証を重要視している可能性はある。後者については、バイデン大統領が任期満了後のことまで何ら確約することはできず、また対イラン強硬派もいる米連邦議会で条約として批准される可能性も低いことから、早期の解決は難しい。イランがレッドラインを下げるか、米国が別の妥協策を提案するかが必要となろう。

 また、イスラエルの動向も見逃せない。シリア、及び、イラク領内を舞台として、イスラエルとイランの低烈度の衝突が続いている。米国としては、米国内政に影響力を有するイスラエルへの配慮を欠くことはできない。

 ロシアのウクライナ侵攻を受けて各国が対ロシア経済制裁を強化する現在、原油価格を含めエネルギー・食料価格が全般的に高騰している。JCPOA再建協議の動向は、国際市場にも影響を及ぼす重要な問題である。イラン側の立場を見る限り、バイデン政権が如何に大胆な決断を下せるかが当面の着目点となろう。

(研究員 青木 健太)

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