中東かわら版

№2 イエメン:2カ月間の停戦合意報道も和平ムード醸成の機運は見られず

 2022年4月1日、国連のグルントベルク・イエメン担当特使は、イエメン戦争の当事者勢力が4月2日19時(現地時間)より、同国での戦闘行為(越境攻撃含む)を2カ月間停止することで合意したと発表した。これは3月30日にGCCの主催でリヤドで開始(~4月7日予定)したイエメン和平協議で国連が提案したものとされ、グテーレス国連事務総長は「イエメン戦争終結のための重要な第一歩」と評した。

 一方、国民救済政府(=アンサールッラー、通称フーシー派)はサウジ主導有志連合の戦闘行為を2日以降も報じている。同様に対立する統一政府側も、アンサールッラーの地雷で民間人が犠牲になったことを伝える等、両者が互いを貶めあう様子に変化はない。

 

評価

 3月30日に開始した和平協議は、イエメン戦争の当事者間による対話を謳ったものである。しかしアンサールッラー側は、開始前からこれについて、自分たちの意向を無視した、和平につながるものではないと非難しており、協議に代表団等を派遣した旨を公式に発表していない。この点、同協議も停戦合意も、当事者間の対話とその成果としての実態はほとんど持っていない。善行が推奨されるラマダーン月初日(正確には4月1日の日没をもって開始)であることとあわせ、ウクライナ情勢を受けた食糧危機も叫ばれるタイミングでの停戦合意発効は、アンサールッラー支配地域への人道支援を部分的にでも可能にする点で重要な意味を持つ。しかし、アンサールッラーと統一政府(及び支援国であるサウジ)との間に建設的な和平ムードを醸成する機運が見られないのは、当然だと言えよう。

 過去にも何度か停戦合意が報じられ、その都度即座に破られてきた経緯を踏まえれば、今般の停戦合意がイエメン戦争に与える影響はとりたてて大きいものではないだろう。一方、アンサールッラーをまがりなりにも支援してきたイランが同合意への支持を表明したことは、両者の間に吹くすきま風にも思える。イランにとってアンサールッラーは、例えばレバノンのヒズブッラー程に緊密な同盟勢力ではない。JCPOA交渉という重要な利害調整を欧米諸国と進めているイランがどの程度アンサールッラーに関わり続けるかも、イエメン戦争を展望する上では重要となる。

 

【参考情報】

『中東かわら版』「イエメン:サウジ石油施設への攻撃とイエメン戦争の進捗」No.131(2022年3月29日)

(研究員 高尾 賢一郎)

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