中東かわら版

№1 アフガニスタン:中国が近隣7カ国外相会合を主催

 2022年3月31日、中国東部の安徽省屯渓で、アフガニスタンに関する近隣7カ国外相会合が開催された。今次会合は、パキスタン(2021年9月)、イラン(同年10月)に続いて3回目となる同じフォーマットでの国際会合であり、中国主催の下、イラン、パキスタン、ロシア、タジキスタン、トルクメニスタン、及び、ウズベキスタンの外相級が出席した。ターリバーン暫定政権からもモッタキー外相代行が参加し、カタル、インドネシアの代表団も参加した。

 冒頭、習近平国家主席は、「近隣諸国にとってアフガニスタンは、同じ山河を介して結びつく、栄枯盛衰をともにする国」と表現し、一致団結してアフガニスタン人民が明るい将来を築く支援をする必要があるとメッセージを寄せた。

 会合後の共同声明では、近隣諸国は、アフガニスタンの主権、領土保全、及び、国家の統一を支持するとの立場を確認するとともに、対話を通じて包摂的な政治機構を樹立する重要性を指摘した。また、近隣諸国はターリバーンに対し、女性、子ども、及び、少数民族の基本的権利を保障することも求めた。この他にも、今次会合では、深刻な人道危機を踏まえた人道支援の継続、貿易・エネルギーを通じた経済の自立、テロ対策、麻薬密輸防止、アフガン難民への対応等について協議された。

 多くの参加国は、ターリバーンを実効支配勢力として認めつつも、包摂的な政権樹立、及び、脆弱な立場に置かれた人々への権利保障などの注文を付した。こうした中、ロシアのラブロフ外相は演説で、ロシア外務省は本年2月にターリバーン暫定政権を代表して派遣された最初の外交官を信任したと述べるなど、国際社会がターリバーン暫定政権と積極的に関与すべきとの立場を鮮明にした。

 また、テロ対策に関しては、「イスラーム国」(IS)、アル=カーイダ(AQ)、東トルキスタン・イスラーム運動(ETIM)、パキスタン・ターリバーン運動、バローチスターン解放軍、ジュンドッラー、ジャイシュ・アル・アドル、ジャマート・アンサールッラー、ウズベキスタン・イスラーム運動等の具体名が挙げられ、これらテロ組織にアフガニスタン国内で安息地が提供されないことの重要性が確認された。

 加えて、共同声明では、今後も特使級協議を継続すること、並びに、第4回外相級会合を2023年初頭にタシュケント(ウズベキスタン)で開催することなどが確認された。

 今次会合のサイドでは、ターリバーンのモッタキー外相代行、中国の王毅外相、及び、パキスタンのクレーシ外相が参加する形で、アフガニスタン・パキスタン・中国3カ国対話を再開することが確認された。同対話枠組みは2012年に立ち上げられたもので、アフガニスタン復興に向けたコンセンサス作りで重要な役割を果たしてきたことから、今後も一定の役目を果たすと考えられる。

 この他、ターリバーンのデラーワル鉱工業・石油相代行が、中央部ローガル州のアイナク銅山採掘権を獲得した中国冶金科工股分有限公司の総裁と個別に会談した他、モッタキー外相代行がロシア、イラン、トルクメニスタン等の代表者と個別に会談した。また、並行して、米・中・露・パキスタンの特使級協議(拡大版トロイカ会合)も開催されると伝えられた。

評価

 米軍撤退発表に伴いターリバーンが実権掌握(2021年8月)した後、中国はアフガニスタンを巡って影響力を漸次的に増大させてきており、今次会合もそうした動きの中に位置づけられる。たしかに近隣7カ国外相級会合は各国の持ち回りで開かれているものではある。しかし、中国の王毅外相とターリバーンのバラーダル副首相代行のドーハ会談(2021年10月26日)、並びに、王毅外相によるカーブル電撃訪問(2022年3月24日)など、活発な往来が続いていることは特筆に値する。欧米の影響力が減退する状況下、その隙間を埋めるように中国が存在感を増している。

 今次会合では、参加諸国はターリバーンに対して要求事項を伝えてはいるものの、全体的には、実効支配勢力であるターリバーンとの対話と協力は不可欠であり、建設的な議論を続けてゆくべきだとのメッセージが強く打ち出されている。これはアフガニスタンの不安定化が、近隣諸国にとっては自国に直接的な影響を及ぼし得る課題であることを反映したものである。欧米諸国がターリバーンに対して、在外資産の凍結解除を梃子に言動の一致を迫る対応とは一線を画している。

 上記の通り、中国とターリバーン暫定政権の接近は今後も進むと考えられるが、その中でも大きな焦点はテロ対策と天然資源開発になると見られる。これまでも累次にわたり、中国はターリバーンに、IS、AQ、及び、ETIM等にアフガニスタンの領土を使用させないよう求めてきた。今次会合でもこの点が共同声明に盛り込まれていることから、中国がとりわけウイグル分離独立勢力ETIMの動向を警戒していることが推測される。また、今次会合のサイドでは、アイナク銅山開発について中国・ターリバーン双方の代表者が協議しており、ターリバーンが中国からの投資を重視している様子もうかがえる。

 また、ターリバーンとトルクメニスタン代表団との会談でも、中央アジアの資源大国である同国からアフガニスタンを経由してパキスタン、インドへと輸送する「TAPIガスパイプライン」事業の実施について協議された。資産凍結に伴い、寡婦が子どもを身売りしなければならない程の深刻な人道危機に直面するターリバーンとしては、中国やトルクメニスタン等隣国からの投資を打開策の一つとして期待しているということだ。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:中国の王毅外相がターリバーンのバラーダル副首相代行と会談」No.75(2021年10月27日)

・「イラン:アフガニスタンに関する近隣7カ国外相会合を主催」No.76(2021年10月29日)

(研究員 青木 健太)

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