中東かわら版

№137 チュニジア:大統領が議会を解散

 昨年7月からサイード大統領による議会停止措置が続く中、2022年3月30日、ガンヌーシー国会議長は、オンライン形式での議会再開を強行した。オンライン会合では、大統領の緊急事態時の特別措置(議会停止措置を含む)と、大統領が権力を奪取した昨年7月以降に発出された全ての大統領令を無効化することが、過半数以上の賛成で承認された。

 これを受け、サイード大統領は国家安全保障評議会を開催し、憲法第72条(国家の独立性を保証する大統領の役割)に従い、議会の解散を発表した。また、司法当局はオンライン会合に出席した議員に対し、「国家安全保障に対する共謀」の容疑で調査を開始した。

 今後の流れについて、現時点でサイード大統領は方針を発表していないが、昨年12月発表の政治行程では、7月25日に改憲に係る国民投票が行われ、12月17日に議会選挙が実施される計画である。

 

評価

 今般、サイード大統領が議会解散に踏み切った理由は、ナフダ党を筆頭とする反大統領勢力が議会再開後、大統領の罷免決議を採決する可能性があったからだ。ナフダ党などは、3月20日に終了した国民協議での低回答率(約8%)を踏まえ、国民の支持を失いつつある大統領に対し、圧力を強めにかかった。これに対し、大統領側は議会解散を通じてナフダ党議員らの国会議員資格をはく奪することで、再度、彼らが議会再開を試みる動きを封じた。

 その一方、議会解散に係る決定は憲法上の問題を抱え、正当性を欠いている。まず、サイード大統領が2021年7月の権力奪取に利用した第80条(緊急事態時の特別措置)の規定では、大統領が同条を適用した後、議会の解散権を行使できない。次に、今回の議会解散の根拠となった第72条には、議会の解散権は一切明記されていない。このように、元憲法学者のサイード大統領は、各条項の曖昧性を利用して拡大解釈を図ることで、政治的権限を維持するとともに、敵対勢力を締め付けてきた。サイード大統領が実権を握る限り、チュニジア政治の権威主義化はより進むだろう。

 この先、議会がいつ再開されるかが懸念されるが、サイード大統領としては、大統領権限の拡大に向けて憲法改正を優先していることから、議会選挙の実施を急ぐ必要がないため、現行の政治行程通り、7月に改憲に係る国民投票、12月に議会選挙を実施する考えであろう。

 他方、チュニジアの民主化を支援してきた主要ドナー国の欧米諸国は、サイード大統領の強引な政治手法を懸念しており、議会解散決定の撤回を要求すると予想される。チュニジアは厳しい財政事情を抱え、IMFとの融資協議を控えている状況下、サイード大統領が欧米諸国からの要請に応じなかった場合、財政支援を得ることがより難しくなる。財政悪化が、公務員や国営企業従業員のほか、大統領を支える軍及び治安部隊の給与面にも影響する事態となれば、サイード大統領の政治基盤が大きく揺らぎ、政権維持が困難になる可能性も考えられる。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「大統領が首相解任と議会の一時停止を発表」No.42(2021年7月26日)

・「憲法改正及び前倒し議会選挙の実施へ」No.94(2021年12月14日)

・「改憲に向けた国民協議の終了」No.134(2022年3月30日)

 

 <中東研究>

高橋雅英「チュニジアの民主化の行方――サイード大統領の権力奪取とナフダ党の凋落」『中東研究』第543号、2022年1月。

(研究員 高橋 雅英)

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