中東かわら版

• 2021エジプト北アフリカ地域
• 公開日:2021/11/19

　2021年11月11月、イギリス・グラスゴーで開催された気候変動枠組条約第26回締約国会議（COP26）で、2022年のCOP27開催地をエジプトのシャルム・シェイフ（シナイ半島南端のリゾート地）とすることが正式に決定された。なお、2023年のCOP28はUAEで開催される。

　シーシー大統領は、COP26における演説で、地球温暖化対策の責務を国際社会の成員が平等に引き受けること、また先進国に途上国の気候変動抑制対策に年間1000億ドルを提供する約束を守ることを呼びかけた。また、一年後の締約国会議の開催に向けて、シャルム・シェイフの道路修繕やサービス事業の機能向上、同市の公共交通機関（バス、タクシー）の燃料をディーゼル油から天然ガスに転換することを命じた。

 

評価　

　エジプトが地球温暖化によって受ける影響には、例えば、地中海の海面上昇により穀倉地帯であるナイル川デルタ地域の12～15％に海水が浸み込み、農業活動に深刻な影響が及ぶことがある。また、気温上昇による干ばつや熱波被害が、農作物の収穫量低下や利用可能な水の量の減少につながる恐れがある。エチオピアの「ルネサンス・ダム」関連でナイル川水量の低下がすでに懸念されていることを踏まえると、水供給量の低下はエジプト人の生活に直結する死活問題である。

　途上国のエジプトでCOP27が開催されることで、来年も、当然ながら温暖化ガス排出削減をめぐる途上国と先進国の負担が主要議題になるだろう。グラスゴーでのシーシー大統領の上記演説内容にも、温暖化対策で途上国のコストを先進国も負担するよう求める姿勢が見て取れる。

　他方、エジプトにとってCOP27の開催は政治的、経済的な意味合いがある。2011年以降に治安が悪化したエジプト、特にシナイ半島のシャルム・シェイフでの開催は、シーシー政権が過去10年間のテロとの戦いに事実上勝利し、治安回復に成功したことを国内外にアピールできる場となる。10月には、シーシー大統領自身が「安定と安心が達成された」と評価した上で非常事態宣言を解除した。また、世界中の首脳がエジプトを訪問し、環境保全という非物質的価値の重要性をエジプトから発信することで、国内のシーシー政権への支持は高まるだろう。さらには、観光地シャルム・シェイフを世界に宣伝し、エジプトにおけるグリーンエネルギー開発に投資が集まる機会にもなる。

　シャルム・シェイフは紅海に面した美しいリゾート地で、エジプト全体から見ると、比較的自然が守られた土地である。政府を挙げたCOP27開催の取り組みの過程で、都市部の大気汚染などの環境問題についても取り組みが進むことが望まれる。

（上席研究員 金谷 美紗）