中東かわら版

№85 トルコ:トルコリラ史上最安値を更新

  2021年11月18日、トルコ中央銀行は金融政策決定会合で、基準となる1週間のレポレートを16%から15%に引き下げると発表した。中銀による金利引き下げは、2021年9月以降、連続となり、同月以降の引き下げ率合計は4%となった。

 この決定を受け、トルコリラ(リラ)は最安値を大幅に更新し、一時10.05円(対ドルでは一時11.22)まで値下がりし、9月以降の約2カ月半で24.7%の下落率を記録した。

 中銀は、トルコ国内の10月の消費者物価が年率で19.89%上昇したことを受け、2021年末のインフレ見通しを前回(9月)の14.1%から18.4%に引き上げた。金融政策委員会はインフレ率上昇の要因として、食料品や輸入品価格の上昇、特にエネルギー価格の上昇を挙げ、供給側の影響によるものだとしている。

 エルドアン大統領は、11月17日に行われた公正発展党(AKP)の国会議員団を前にした演説で、「我々は国民の背中から金利負担を取り除く」と語り、金利引き上げ反対の姿勢を繰り返し主張していたことから、今次利下げ断行の背景には、中銀当局者への強い政治的圧力があったものとみられている。

  

評価

 公的金利の引き下げに対して国内外から批判的な論調が強まっているにもかかわらず、エルドアン大統領が低金利にこだわるのは、同大統領やAKPの支持層に中小企業経営者や低所得者層が多いことが考えられる。金利の引き上げは、銀行や金融機関からの借り入れが多い、こうした人々の破綻を招くことに繋がる。彼らはエルドアン政権の所謂、岩盤支持層と重なる場合が多く、政府としても引き上げを主張することは困難である。

 また、集権的大統領制へ移行してから、大統領の側近に金融政策や経済の専門家が不在であることも大きな要因と言える。AKPが政権を獲得して以降、トルコが飛躍的な経済発展を遂げた背景には、テクノクラートを重用し、専門家を重要なポストに登用してきたことがあった。だが、大統領制へ舵を切って以降、エルドアン大統領に直接「ものを言える」側近が次々と排除され、最近では大統領の強権化による官僚との溝も囁かれている。一連の利下げは、上述の国内事情や、金利に否定的なエルドアン大統領自身の考えもさることながら、優秀な側近不在も大きいと言えよう。

 事実、公的金利の引き下げを断行しても市中金利は下がっておらず、エルドアン大統領が主張するような効果は未だ見られていない。インフレによる食料品価格の高騰も深刻化し、失業率も高止まりのまま推移している。さらに世界的な原油、天然ガス等の資源価格の高騰と、新型コロナウイルスの影響で外国からの観光客激減による外貨収入の減少が重なっていることも、トルコ経済に大きな打撃となっている。

 こうした状況下で発生したリラの続落は、コロナ禍で疲弊した人々の生活を直撃しているだけではなく、先行きが不透明な中で、蓄積された人々の不満がシリア人難民に向けられる傾向も顕著になっている。8月に発生したアンカラ暴動にみられるように、難民排斥の声が高まり、暴力的な行動も表面化した。当局は取り締まりの強化に乗り出しているが、市民の難民に対する敵対的な行動は、トルコ国内で大きな社会問題となっている。

 国内の不安定化が続けば、外国からの投資の引き上げやリラの下落を招く要因ともなり得る。金融関係者の間では、12月16日に実施予定の金融政策決定会合で、更なる利下げを予測する声も上がっており、トルコ経済が不安定な状況を脱するのには、未だ時間がかかるだろう。

 

(研究員 金子 真夕)

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