№83 リビア:ハフタルが大統領選挙への立候補を表明
2021年11月16日、リビア紛争での東部勢力の中心人物、ハフタルは12月24日実施の大統領選挙への立候補を表明した。ハフタルはテレビ演説で、選挙はリビアが危機を脱するための唯一の方法であると述べ、大統領選挙で勝利した際には、和解、平和、国家再建の道を歩み始めることを約束した。ハフタルの出馬は今年9月時に有力視されており、その背景として、彼は自らが率いるリビア国民軍(LNA)の総司令官ポストを9月23日~12月24日まで一時的に辞任し、選挙法第12条(立候補者は選挙実施日の3カ月前までに現職を辞めていること)の立候補資格をクリアしようと動いていた。
他の立候補者については、ハフタルの発表に先立ち、11月14日にカッザーフィー大佐の次男、サイフ・イスラームも立候補届出書を南部セブハーの選挙管理事務所に提出した。その一方、西部ザーウィヤ市の政治家や市民団体は、前政権関係者である彼の出馬に反対する声明を発表し、またリビア軍検察も高等国家選挙委員会(HNEC)に対し、彼の立候補取り下げを要請するなど、大統領選挙の立候補表明が政治的混乱の引き金となっている。
評価
ハフタルはカッザーフィー政権期の軍幹部であったが、2011年の同政権崩壊までアメリカに約20年間亡命していた。その後、2014年5月にリビア紛争の発端となった東部ベンガジでのイスラーム主義者掃討作戦を開始し、2019年4月にはリビアの軍事統一を図るためトリポリ奪還作戦に着手するなど、リビア情勢は常にハフタルの動向に左右されてきた。
今般、ハフタルが立候補に踏み切った背景には、政治行程表の選挙日程を遵守することで、紛争解決を目指す国連や欧米諸国に向けて自らが協力者であると演出する狙いがあると考えられる。ハフタルはこれまで国連仲介の政治合意を拒否し、軍事力による紛争解決を図っていた。しかし、軍事統一の野望は2020年1月のトルコの軍派遣によって頓挫した。そのため、ハフタルはトルコ軍の撤退状況をにらみつつ、ひとまずは選挙参加を通じて、民主的な選挙プロセスを重視する欧米諸国との関係構築を図っていると見られる。
東部勢力のハフタルが出馬する一方、彼と対立する西部勢力は選挙をボイコットする動きを見せている。トリポリ拠点のミシュリー国家高等評議会(HSC)議長は、東部拠点の代表議会(HOR)採択の選挙法案を承認せず、再協議のために選挙日の3カ月後ろ倒しを訴えている。また、国民統一政府(GNU)のダバイバ首相もリビア人の総意に基づく法的基盤を構築するため、選挙延期の可能性に言及するなど、12月24日の投票に難色を示す。
国連や欧米諸国は政治行程表に沿った選挙日程を維持する方針であることから、選挙管理機関のHNECは選挙を強行すると予想される。こうした状況下、実際に西部勢力がボイコットすれば、ハフタルが大統領選挙の最有力候補となり、ハフタルが国家統治の正統な権限を獲得できる絶好の機会を得ることになる。仮にハフタルが勝利し、政治的権限を握る事態となれば、西部勢力はこれまで利用してきた「国連承認の政府」の地位を失う恐れがある。その一方、西部勢力は候補者を擁立すればHORの選挙法案を認めることになる。そのため、西部勢力は新たな選挙法の制定まで選挙実施を遅らせようと、民兵を動員し武力を用いた妨害活動を展開する可能性も考えられ、12月24日に選挙が実際に行われるか不透明な状況である。
(研究員 高橋 雅英)
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