中東かわら版

№147 イスラエル:2年間で4回目の総選挙の結果

 2021年3月23日、イスラエルで2年間で4回目となる総選挙が実施され、25日投票結果が発表された。今回の選挙は、連立政権を組むリクードのネタニヤフ首相と青と白のガンツ副首相兼国防相が予算案について合意に至らず、2020年12月に国会が解散されたことに伴い、実施された。

 選挙は全国一区の比例代表制で行われ、得票率3.25%以上の選挙名簿が国会(クネセト;120議席)に議席を得ることができる。結果は、ネタニヤフ首相率いるリクードが30議席で第一党となり、第二党は17議席を獲得した中道のイェシュ・アティド党となった。リクードと連立政権を組んでいた青と白は、前回選挙(33議席)から大きく議席を減らし、わずか8議席であった。各政党/政党連合の議席数は以下の通り。

【2021年3月 国会選挙の結果】

政党・政党連合(下段は党首)

議席(前回比)

リクード

(ビンヤミン・ネタニヤフ)

右派

     30(-6)

イェシュ・アティド

(ヤイル・ラピード)

中道、反ネタニヤフ

     17

(*前回は青と白連合)

シャス

(アリエフ・デリ)

ユダヤ教超正統派、リクードと連立予定

      9(±0)

青と白

(ビンヤミン・ガンツ)

中道、反ネタニヤフ

      8(-25)

ヤミーナ

(ナフタリ・ベネット)

右派

 

      7(-1)

労働

(メラヴ・ミカエリ)

左派、反ネタニヤフ

      7(±0)

(*前回は労働・ゲシェル・メレツ連合)

イスラエル・ベイテヌ

(アヴィグドル・リーベルマン)

右派、反ネタニヤフ

      7(±0)

トーラー・ユダヤ連合

(モシェ・ガフニ)

ユダヤ教超正統派、リクードと連立予定

      7(±0)

新しい希望

(ギデオン・サアル)

右派、反ネタニヤフ

新党、リクードから分離

      6

合同リスト

(アイマン・オーデ)

アラブ系、反ネタニヤフ

      6(-9)

宗教シオニズム

(ベザレル・スモトリッチ)

極右

      6

(*前回はヤミーナ)

メレツ

(ニツァン・ホロウィッツ)

左派、反ネタニヤフ

 

      6

(*前回は労働・ゲシェル・メレツ連合)

ラアム

(マンスール・アッバース)

アラブ系

      4

(*前回は合同リスト)

(出所)現地報道をもとに作成。

 

評価

 比例代表制を採用するイスラエルでは総選挙で単独過半数を取った政党はなく、今次選挙でも過半数の議席を獲得できた政党はいなかった。そのため、連立交渉が今後の焦点となる。しかし、近年の小党乱立傾向や、ネタニヤフ首相の政治手法に異議を唱える勢力と首相支持派の対立により、総選挙を繰り返したこの2年間は連立形成が難航したり連立政権が崩壊したりしてきた。これから行われる連立交渉も容易に進まないと予想される。

 リクードが第一党を維持できた理由は、長期間連立政権の中心与党であった実績に加え、COVID-19感染拡大下で世界に先駆けて国民の半数以上にワクチン接種を実施し、社会・経済活動の再開を可能にしたことがあるだろう。ただし、感染拡大を抑制するため行った数度のロックダウンで経済が受けたダメージは大きく、失業率は25%に達する。国民の経済的不満への対処が政府の今後の課題となるだろう。

 連立交渉の焦点は、ネタニヤフ陣営と反ネタニヤフ陣営のどちらが国会過半数の61議席以上の連合を組めるかである。30議席のリクードは長年の協力相手であるユダヤ教超正統派の2党(シャス、トーラー・ユダヤ連合)と組んでも61議席に達しないため、さらに他の政党と組まなければならない。リクードとの連立に前向きな政党は極右の宗教シオニズム党だが、スモトリッチ党首は、パレスチナ人に対する人種差別的かつ暴力的行為で知られるメイル・カハネ(1990年暗殺)の支持者であり、同党との連立は国内外に物議を醸すだろう。他方、青と白は、ガンツ党首とネタニヤフ首相の対立で連立政権が終了した経緯があるため、再びリクードと協力する可能性は低い。右派のイスラエル・ベイテヌ党と新しい希望党は反ネタニヤフ姿勢を明確に示しているため、これらもその可能性は低い。したがって、ネタニヤフ首相支持勢力の合計は現在のところ52議席となる(リクード、シャス、トーラー・ユダヤ連合、宗教シオニズム党)。

 反ネタニヤフ陣営は、中道のイェシュ・アティド党、青と白、右派のイスラエル・ベイテヌ党、新しい希望党、左派の労働党、メレツ党、アラブ系の合同リストで、合計57議席である。しかし、これらの共通点はネタニヤフ首相の続投に反対することだけでイデオロギーがあまりに違うため、連立実現の見通しは不透明である。

 連立交渉のキャスティング・ボートを握りそうなのは、右派のヤミーナとアラブ系のラアム党である。ヤミーナのベネット党首はネタニヤフ陣営・反ネタニヤフ陣営どちらとも連立を視野に入れているようであり、ラアム党のアッバース党首はアラブ人社会の諸問題を解決するためにはリクードとの連立も厭わない姿勢を見せている。

 イスラエルでは、政党や政治家が党利や個人的利益のために党を移動したり連立相手を変更することは常である。連立交渉の難航が予想される中、上記以外の組み合わせが検討される可能性は十分にある。また、政策面での連立より政治家同士の対立や党利重視の連立が際立つ現状において、次期連立政権が再び短期で終わる可能性も排除できない。

(上席研究員 金谷 美紗)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP