中東かわら版

№146 イラン:イラン暦1400年のスローガンを「生産:支援、障害の除去」と発表

 2021年3月21日のノウルーズ(イラン暦の元日)に当たり、ハーメネイー最高指導者はイラン暦1400年(注:2021年3月21日~2022年3月20日)のスローガンは「生産:支援、障害の除去」だと発表した。これは前日(20日)に公表された新年祝いのメッセージで明らかにされたもので、COVID-19の感染拡大、及び、米国による「最大限の圧力」によって生じた苦境を「生産」の活性化によって克服する方針を表したものである。前年のスローガンは「生産の飛躍」であったことから、同指導者が、イラン国内産品の生産拡大を重視する姿勢を明確にしたといえる。また、21日、ハーメネイー最高指導者はテレビ演説を行い、米国の「最大限の圧力」は失敗したと明言し、米国が先に制裁を解除すればイランは核合意(JCPOA)を遵守すると改めてJCPOA遵守の条件を示した(詳細は『中東かわら版』No.136参照)。

 このようにイラン側は強硬な立場を維持しているが、米国側からは歩み寄りに向けた柔軟な姿勢も示されている。21日、ホワイトハウスは、ノウルーズの精神は「新生と再生」だとして、ハフトスィーン(注:イラン伝統のノウルーズ飾り)とともに、祝意を伝える動画を公表した。同日、ブリンケン国務長官もペルシャ語を交えて祝意を伝える動画をツイートした。

評価

 今次スローガンからは、ハーメネイー最高指導者が欧米に対して募らせた不信感が相当根深いことがうかがえる。同最高指導者は、これまでイランでは「もし制裁が解除されれば」「もし海外からの投資が来たら」という希望的観測に基づく行動がとられてきたが、そのことが結果的に経済を悪化させたと断じている。その上で、今般、前年に引き続き「生産」を強調していることは、制裁解除がなくとも自活する必要に迫られていると認識してのことだと思われる。実際、米国による厳しい経済制裁は、トランプ政権に先立つオバマ政権期から続いてきた。そうであれば、ハーメネイー最高指導者は、オバマ政権高官の多くが名を連ねるバイデン政権に対しても、過大な期待は寄せていないだろう。この意味で、イランは、米国によるJCPOA復帰を望んではいるものの、決して急いでいないといえる。

 他方で、イランのこうした強硬姿勢は、将来の交渉のドアを完全に閉ざすものではない。累次の発言から、先に米国が行動を起こすことで事態が進展する可能性は残されていることがわかる。バイデン政権は本年2月18日に、トランプ政権期のスナップバック(国連制裁再発動)を撤回すると国連に通知するなど、前政権による政策の一部を過ちと認める行動に出ている。バイデン政権高官によるノウルーズに当たってのメッセージは、単なる美辞麗句とも受け止められる。しかし、トランプ政権期にこうした対応はなかったことから、今回のバイデン政権からのシグナルは現下の膠着状態の打開に向けて、小さいが、明るい材料ではある。

(研究員 青木 健太)

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