中東かわら版

№148 サウジアラビア:中国との緊密な関係をアピール

 2021年3月21日、国営石油会社サウジアラムコのアミーン・ナーシルCEOは、中国で開催された中国開発フォーラムにビデオメッセージを寄せた。その中でナーシルCEOは、「再生可能エネルギーへの転換は重要だが、現実問題としてそれが石油に取って代わるには時間を要する」と説明した上で、アラムコが中国のエネルギー安全保障を今後50年間、さらにそれ以降の最優先事項とし続けると述べた。中国は2020年9月にカーボン・ニュートラル公約(2060年までにCO2排出量と除去量を差し引きゼロとする計画)を発表しているが、現時点で具体的な計画は明らかになっていない。ナーシルCEOによる今般のメッセージは、同公約の実現に向けてアラムコが具体的な支援を表明したことを意味する。

 また、23日には中国の王毅外相がサウジを訪問し、ファイサル・ビン・ファルハーン外相及びハジュラフGCC事務局長らとリヤドで会談し、翌24日にはムハンマド皇太子と北西部産業都市NEOMで会談した。会談ではそれぞれ、二国間の関係強化や最新の地域・国際情勢について協議したとされる。

 

評価

 サウジ・中国は1990年の国交樹立以降、経済・貿易・投資分野を中心に相互依存の関係を築いてきた。「サウジ・ビジョン2030」と「一帯一路」というそれぞれの国家プロジェクト発足以降、両国関係は一層包括的かつ実体的なものに発展している。このため、サウジが中国政府への支援を表明し、両国ハイレベルによる交流が行われたこと自体は自然なことである。

 一方でタイミングに目を向ければ、サウジが2021年に入り、ロシアを抜いて中国にとっての最大の原油輸入国となったことが大きい。過去1年、原油価格低迷やCOVID-19による石油需要の低下が続いたことを踏まえ、サウジとしては石油需要が回復しつつある中国を原油輸出の一層大きなマーケットとし、基幹産業の体力回復を図りたいところだ。加えて、米国のバイデン政権がサウジへの武器輸出停止を決定し、JCPOA復帰(≒イランの国際社会復帰の支援)を模索している状況も無視できない。サウジにとって、香港・台湾・ウイグルの人権問題をめぐってバイデン政権の「攻撃」を受けている中国との関係強化のアピールには、同政権との距離を測るための米国への牽制といった意味もあるだろう。

 

【参考情報】

下記もあわせてご参照ください。

「特集:中国の中東進出」『中東研究』537号(2019年度 Vol.Ⅲ)(2020年1月31日)

 

(研究員 高尾 賢一郎)

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