№136 トルコ:イスタンブルでウクライナ停戦協議を開催
2022年3月29日、ロシア・ウクライナ代表団がトルコのイスタンブルでウクライナ戦争に関する停戦協議を実施した。両国の代表がトルコで直接交渉を実施するのは、3月10日のアンタルヤでの外相会合に続き二度目となる。
トルコが仲介役を務めた同協議は、約4時間にわたって行われた。これに先立ち、エルドアン大統領はロシアとウクライナの代表団と会談し、「公正な平和には敗者がなく、紛争の長期化は誰の利益にもならないと考えている」と語り、両国に対して改めて停戦を呼びかけた。
会談終了後、ウクライナの筆頭交渉官であるポドリャク大統領顧問は、記者団に対し、今次交渉におけるウクライナ側の提案として、ウクライナの中立性を維持する(NATOに加盟しない)代わりに、集団的自衛権の行使を規定した「北大西洋条約第5条」に類似する安全保障条約の締結を提案したと明かした。同提案は、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国+トルコ、ドイツ、カナダ、イタリア、ポーランド、イスラエルを保障国として巻き込み、ウクライナを「いかなる侵略からも」積極的かつ法的に保護するものだとしている。複数の関係国を保障国とすることでロシアへの抑止力を強化する狙いがあるとみられる。
クリミア半島問題に関しては、15年以内に(ロシア・ウクライナの)「二国間交渉によってのみ解決する」という文言を明文化し、いかなる場合においても軍事的手段を用いて同問題を解決しない、という申し入れもなされた。
これに対しロシア側代表団長のメディンスキー大統領補佐官は、今次会談が「建設的」であり、ウクライナ側は平和条約に盛り込むべき「包括的な立場」を提示したとして、一定の評価を下したが、保障国に関する安全保障条約に関しては回答を留保した。また、同補佐官は、交渉担当者および外相らにより、実現可能性のある平和条約の草案が完成し、両国で承認されればプーチン・ゼレンスキー両大統領間の会談が行われる可能性があることを示唆した。さらに、フォミン国防次官は、信頼醸成と更なる協議開催のための条件整備、平和条約の合意という最終目標の達成に向け、ウクライナの首都キエフと北部のチェルニヒウにおけるロシア軍の軍事活動を大幅に縮小させると記者団に語った。
当初の予定では、二国間交渉は29~30日の2日間予定されていたが、29日のみで終了し、結果を持ち帰ったうえで今後はオンラインによる交渉が継続される見通しとなった。
評価
今般の停戦協議は、前回のアンタルヤ会合よりも踏み込んだ内容となり、双方から歩み寄りがあったとみられる。トルコのチャウシュオール外相は協議終了後に「交渉開始以来、最も有意義な進展」を達成したと語り、両者の間に「和解」の機運が高まっていることを歓迎した。
トルコはこれまで一貫して、中立的かつバランスを重視した立場を堅持してきた。ロシアを孤立させる国際的な制裁措置には反対する一方で、ロシア艦船の通行を防ぐためモントルー条約の適用に踏み切った。
ウクライナ戦争は、トルコの船舶がロシアで足止め状態となっていることや、ボスポラス海峡でロシア製とみられる機雷が発見され、一時、全船舶の通行禁止措置が採られる等、トルコの経済、安全保障にも広く影響を及ぼしている。停戦の早期実現はトルコにとっても最重要外交課題の一つである。
トルコ側が度々主張しているように、これまでのトルコの外交姿勢に対するロシア、ウクライナ両国からの信頼は厚く、ロシアが回答を保留した安全保障条約の保障国に関する点においても、トルコが入ることだけはロシア・ウクライナ双方が合意している点は注目に値する。
ロシアが表明したキエフとチェルニヒウにおける軍事活動の縮小が予定通り実行されるのか、民間人退避のための人道回廊の確立等、停戦およびその後の平和条約締結にまでたどり着けるのか、については不透明であるものの、トルコの外交努力が一定の貢献をもたらしていることは評価できるだろう。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「トルコ:ロシアのウクライナ軍事侵攻への対応」No.116(2022年2月25日)
・「トルコ:ロシア・ウクライナ・トルコ外相の3カ国協議の実施」№126(2022年3月11日)
(研究員 金子 真夕)
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